佐久間と(小学四五年生)


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太陽はさんさんと照りつけ私の肌をじりじりと焦がした。
今日は終業式だった。
私のランドセルからは図工の授業で作った変なうさぎのような、さるのようなぬいぐるみや、使い古したリコーダー、木でできた三十センチ定規がはみ出している。もちろん、教科書やノートでパンパンに膨れているものだから、ものすごく重い。それはもう、背中に誰かが覆い被さっているかのようだった。しかも、それだけじゃない。右手には習字道具、左手には道具箱を無理やり詰め込んだ手さげ、おまけに肩には絵の具セットをかけているのである。そんな私は帰り道を息絶え絶え、足を引きずるようにして歩いていたのである。
後ろから駆け抜けてくる手ぶらに近いような子たちを私は羨ましく思いながら、カラカラに渇いた喉を少しでも潤すために唾をゴクリと飲み込んだ。生ぬるいそれでは、全く役に立たなかったがそうでもしなければ死んでしまいそうだった。そんな時、私の前方の駄菓子屋の前によく見知った涼しげな髪色の少年がいるのが見えた。私はその少年に向かって最後の力をふりしぼって走りだした。少年は見るからにキンキンに冷えたラムネを飲んでいたからだ。私は少年の前に汗を飛び散らせながら登場してみせると、少年は両目を大きく見開かせて驚いた。(このときの私は、この綺麗な目の片方が見えなくなるなんてことは知る由もない。)


「次郎!」
「うわっ」
「一生のお願い!一口ちょうだい!」
「ぜってーやだ!!」
「なんで!!」


私の懇願を意図も容易く断った理由を聞くと、次郎は視線を落とした。だって私は生きるか死ぬかの瀬戸際なのに!次郎はラムネ一口さえくれやしないのか!神さま!こんなことってありですか!もう、喋る気もおきない、というよりは、喋る気力がない私はそんな意味をこめ次郎の視線を一生懸命追った。するととうとう堪忍したのか、次郎はそっぽ向いて口をいやいや開いた。


「……飲みかけなんてやだろ?」


なんだあ、そんなことを気にしてたのか、全然いいよ!私は心の中で言って首を横にブンブン振った。そして、もう我慢できずに私は次郎の手の中にあるラムネに手を伸ばした。しかし次郎は身を翻し私の手を払いのけた。


「アホ!」


そう罵られた後、次郎は走って男の子にしては長い襟足から汗を一滴飛ばして駄菓子屋の奥に消えていった。私は絶望の縁に立たされたような気持ちになって、ついに膝から崩れ落ち熱々のコンクリートの上にしゃがみこんだ。その照り返しのせいでますます体温が上昇して意識が遠のく感覚を覚えた。もうだめだ。
そう悟ったその時だった。私の火照った頬にマイナス十五度の冷たい衝撃が走ったのだ。私の意識はその一瞬で冴え渡った。


「ほら。立てよ」


私の頬にあったのは、キンキンに冷えたラムネだった。私は一目散にそれを次郎の手から掴み取って、ビー玉をキュポンと落とし、一気に飲み干した。渇きに渇いた喉をシュワシュワの甘い炭酸が爽快に駆け抜ける。全身がクールダウンしたかのようだった。


「生き返ったあああ!!」
「だったら早く立て。倒れるなんて勘弁だからな」


非常に面倒くさそうに言った次郎は、それから私の両手にあった荷物を持って歩き出した。あ、なんて声を発して私もすぐに立ち上がる。そしてその自分の身軽さに驚いたのだった。その時次郎に今一度感謝の気持ちが湧き出してきたのである。


「ありがとう次郎!」
「明日のプール代よろしく」
「えー!!」


数メートル前を行く次郎の後ろ姿は、私の荷物を両手に提げた、たくましい男の子そのものだった。日に焼けた肌もわりと筋肉質なところも。
私は夏の濃い陰と一緒にその光景を目に焼きつけた。



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