ギリギリ遅刻を免れる時間に学校に着いた。教室の扉をガラリと開けて真っ先に名前の席を見ると名前が居なかった。俺は教室を見渡した。名前の姿が見当たらない。いつも大体名前はどこかしらに居るのに。あいつが居ないと面白くない。早く来いよ。つまらないから源田にちょっかいでも出すか。俺は前の席の源田に声を掛けた。

「おい、源田」

「なんだ、不動」

「名前が居ないんだけど、お前のせいだばーか」

「………」

源田は何も反応しない。やっぱり名前をからかう方が楽しいと思っていると源田が口を開いた。

「名字は風邪をひいたらしい」

「ふーん、ばかだからな、あいつは」

「不動、お前、帰りに名字の家に寄れ」

「は?なんで俺が」

「先生からプリントを預かった。俺が行くよりお前が行く方がいいだろう」

「面倒くせーな」

俺はそう言いつつもプリントを受け取った。どうやら源田は日直らしい。

「お前今日日直かよ、どんまーい」

「ああ、お前とだと本当に大変だからな」

「………」

調子に乗った源田がうざかったからそれきり俺は無視をした。佐久間が源田の肩を叩いたのを見てまた苛立ちが増した。



俺は学校が終わって即刻名前の家へと向かった。名前の家の場所は知っているが家に行くのは初めてだった。まあ、別に中に入る訳じゃないし。そう思いながら足を進ませているともう名前の家の前だった。インターホンを鳴らした。10カウントしても誰も出て来ないからまた俺はインターホン鳴らす。今度は30待ってやる。26カウント目くらいに玄関が開いた。

「ごめんごめん、お母さん買い物行ってて私寝てた」

「チッ、せっかく俺がプリント届けに来たのに早く開けろよな」

「ありがとう」

名前は本当に起きたばかりというようでボサボサ頭にパジャマ姿だった。

「お前さ、普通そんな状態で出てくるか?」

「遅くなったら明王怒るじゃん」

「それもそうだな、じゃあな、ボサボサ」

俺は踵を返し後ろに居る名前に手を振って言った。

「ボサボサじゃないよ!このはげ!」

聞き捨てならない単語が聞こえてきたので俺はすかさず振り向き応戦する。

「はげじゃねえよ、てめえ、恩人に対してその態度はねーだろ」

「うっさい!明王もボサボサにしてやる!」

名前が俺の髪をくしゃくしゃに掻き乱した。

「名前、てめえ、やったな……!」

「へへーんだ!明王がわるっ…」

名前の言葉が突然途切れ名前の膝がガクリと落ちた。

「おい!」

「いきなり大きい声出したから疲れた」

俺は名前が相変わらず無駄に元気そうだったからもう良くなっていたとばかり思っていた。名前はこめかみを押さえてしゃがみ込んでいた。

「頭痛いのか」

「がんがんする」

俺は名前のおでこに手を当てた。

「あちいじゃん」

名前はしゃがみ込んだままで必死に痛みに耐えているようだった。

「しょうがねえな」

俺は名前を負ぶって家の中に入った。靴を脱ぎ捨てた後名前の靴も脱がした。

「背中に柔らかい感触がすんだけど」

「ばかやろう」

そう言って俺の背中を叩くが力が入っていなくて全然効かなかった。いつも弱いがいつもよりはるかに弱かった。

「二階行ってすぐの部屋」

一言喋る事さえ辛そうにしていたので俺はすぐに二階の部屋に行った。そこは如何にも女の子の部屋という感じがしてちょっと拒絶反応がした。多分名前の部屋なんだろう。

「ベッドに下ろして」

「おう」

名前はすぐに布団に包まった。

「明王……」

俺の名前を呼ぶ声がいやに艶っぽい。それに目がとろんとしていて俺の知ってる名前じゃなかった。

「ありがとう」

俺は我慢出来ずに名前の唇に自分のを重ねた。

「…んぁっ」

「変な声出すな、あほ」

俺はまた名前にキスをした。

「じゃあな」

「うん、ありがとう」



朝起きると体調が良くなっていたので学校に行くと明王が居なかった。

「源田ー、明王知らない?」

「知らんが、居ないな」

「ふふ、俺はわかるぞ、名字」

いきなり佐久間が話に入ってきた。

「大方キスかなんかで…」

「わー!!これ以上言っちゃだめだからー!!」

「ははは……」

力ない源田の笑い声は誰にも聞こえていなかった。



(20100921)









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