「鬼道」

放課後の廊下を歩いている足を止め振り向くと真剣な眼差しをしている名字がそこには居た。俺は少し面食らったがそれを抑えて答えた。

「なにか用か」

窓からの夕暮れの光で名字の顔はさらに真剣なものに見えた。

「鬼道……、春奈ちゃんを私にくれ!」

「断る!」

自分でも驚く程の速さで答えた。以前からこいつは可笑しな奴だと思っていたがここまでとは。

「そもそも春奈をくれとはどういう事なんだ。場合によってはお前といえど…」

「だってね、春奈ちゃん、すごく料理上手で頭も良いんだよ!こないだ宿題手伝ってもらった!その時もらったマドレーヌ超美味しかった!」

嬉々として名字は言った。いつの間に春奈と名字はこんなにも仲良くなっていたのかと俺は疑問に思った。

「お前、後輩に勉強教えてもらうなんて情けないと思わないのか」

「全然!」

満面の笑みで答える名字に呆れて俺も少し笑ってしまった。

「それにさ、春奈ちゃんのお姉ちゃんになれば、鬼道が……」

そこで名字の言葉は途切れた。俺は頭に疑問符を浮かべて言った。

「俺がどうしたって言うんだ」

さっきまで嬉しそうに明るく話していた名字はどこへ行ったのか、打って変わって名字は頬を赤らめていた。そして背けていた視線を俺に戻し俺の顔を覗き込んだ。自然とそれが上目遣いになり俺は不覚にも胸がときめいた。

「鬼道が……お兄ちゃんになるじゃん」

俺はその言葉にさらにときめきを覚えた。だからそれを解消するためであるかのように名字の頭を撫でてやった。

「わっ、髪が乱れる!」

俺は名字を抱き寄せて言った。

「今度から勉強は俺に頼め。それと、本当にお兄ちゃんでいいのか?」

名字は一瞬戸惑いを見せたが答えはすぐに決まったようだった。

「やだ」

そう言った名字はあまりにも可愛かったものだから俺は衝動的に名字の唇を奪った。唇を離すと名字の頬の赤みが増していた。

「な、な、なにすんの」

「つまり、そういう事だ」

どういう事?と問わんばかりの表情を名字がしていたからもう一度さっきよりも深いやつをお見舞いしてやった。こいつが理解出来るまで止めるつもりはない。



(20100918)









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