机に突っ伏していると背中を指でつつかれている感覚がした。そんなつんつんとかそういう気分では全くないのに。 さっき私は先生から呼び出しをくらい職員室に行くと、「次のテスト頑張らないと高校危ういぞ」という宣告を受けたのだった。 情けなさすぎて溜め息さえ出なかった。そう思い返している際も背中のつんつんは絶え間なく続いていた。私はさもぐっすり寝ていて気付かない風を装った。すると相手はやっと諦めてくれたようでつんつんを止めた。これで現実逃避ができると思ったら、首にひんやりとした感覚がして全身にぞわっとした衝撃が走って私は思わず声を上げて起きた。 「うわあ!」 「やっと起きたか」 眉間に皺を寄せて明らかに不機嫌とわかるような顔で後ろに振り向いた。 「鬼道か」 日頃鬼道はつんつんとかそういった行為はしないので私は意外に思った。 「お前の後ろ席は俺だろ」 そういえばそうだった。私は切羽詰まっていたため考えが及ばなかったようだ。 「それで、なに?」 私はできるだけ苛々する感情を抑えて鬼道に訊いた。 「俺で良ければ力になる」 「え?」 何を言い出すのか、意味がわからない。 「さっきお前職員室に居ただろ」 そこで私はなんとなく鬼道の言いたい事がわかった。 「聞こえたんだ、だから…」 私は鬼道の言葉を遮って先に答えた。 「いいよ、別に、もう諦めてるし」 そう言った後鬼道は眉をひそめた。 「駄目だ」 初めて聞くような凄みを利かせた声色だった。 「今日俺の家に来い」 「はぁ?」 あまりにぶっ飛んだ一言に私は思わず声を上げた。鬼道はそれから一呼吸置いてから言った。 「特訓だ!」 「何言ってんの」 困惑している私に特に鬼道は何も言わなかった。 「それって強制的?」 「当たり前だ」 どうやら鬼道は本気らしかった。しかし私が勉強なんて、真っ平御免だ。帰りの挨拶が終わって私は扉に向かって全速力で走り出した。そして廊下を駆け抜け階段に続く曲がり角を曲がった時手首と肩を掴まれた。 「わあっ」 「やっぱりな、名字の事だから逃げ出すと思って待っていたんだ」 鬼道が私の腕を掴んで離さない。 「離してよ」 私が振りほどこうとしても決して離してはくれなかった。鬼道を睨んでみても鬼道はそうしたままだった。妙な空気が流れる中、口火を切ったのは鬼道だった。 「名字はなんで俺がお前に勉強を教えようとしているのか疑問に思ってるんだろ?」 「うん」 数秒間無言がまた続いた。鬼道はその私の疑問に早く答えればいいのに言葉に詰まっているようだった。また私の疑問が深まった。突然鬼道が私の腕から私の肩に手を移動させた。私と鬼道は向かってお互いの目を見た。一瞬だけ見えた鬼道のゴーグルの下の目は真剣そのものだった。 「お前と同じ高校に行くためだ」 「えっ」 そう言った後私は鬼道に抱き締められた。その言葉と行動に私はただただ驚くばかりだった。 「な、なんで」 「お前と一緒に居たいからだ」 鬼道の言葉に私は胸が熱くなった。 「駄目か?」 「ううん、そんな事ない、私も鬼道と一緒に居たい」 こんな事を口走るなんて初めてだった。なんとなく鬼道が私をそうさせたんだと思った。 「本当か!」 鬼道は抱き締めるのを止めてもう一度私の肩を掴んで私を向き合わせた。いつもポーカーフェイスな鬼道の顔が耳まで真っ赤で私はびっくりしてしまった。私の視線に気付いた鬼道はまた私を抱き締めた。 「なんで抱き締めんの」 「顔を見られたくない」 そう言った鬼道をとてもいとおしく思った。 二人で鬼道の家まで向かっている途中、私はある事に気付いた。なんでこんな重大な事に気付かなかったんだろう。 「鬼道ってさ、めちゃくちゃ頭良いよね」 「そうか?」 「鬼道の行く学校ってめちゃくちゃ難しいんじゃない?」 鬼道は口角を上げて言った。 「だから今から頑張るんだろ」 「出来るかなぁ」 「俺が明日からみっちり特訓してやる」 いつもの私なら絶対嫌だ、と断る所だが今なら胸を張って言える。 「うん!」 「いい子だ」 と言って私は頭を撫でられた。それが異常に照れ臭くて私は走り出した。 「あっ、おい!」 「鬼道ん家まで競争!」 青春と共に走り出した私達は必ず未来をも共に歩む事だろう。私はそう強く思った。 (20100915) |