胸にひんやりとした感覚が伝わって目が覚めた。

一番最初に俺の視界に飛び込んできたのはシャツのボタンに手を掛けていた名前の顔だった。それは寝ぼけた脳を起こすのには十分な衝撃だった。
名前は俺の下腹部辺りに跨がっていた。
思考が停止した。

「あ、修也おはよ」

「な、ななななにしてるんだ」

「え、……お着替え?かな?」

俺は危険を察知してベッドから転げ落ち(受け身はバッチリだ)床にへたり込んだまま冷静に状況を整理しようとしたら、尻に異常なほどの冷たさが伝わってきた。疑問に思い視線を落とすとそこには、ヒラヒラした太ももさえも少しくらいしか隠れない布があった。簡単に言うと制服のスカートだ。しかも膝より長い黒い靴下まで履いていた。


「名前の仕業か!」

「修也の寝顔が可愛いくて、つい」

「ついじゃない!」

ベッドに座り込む名前には全く悪びれる様子も無く、いつも通りあっけらかんとしていた。
よく見ると名前は俺のジャージを着ていて、上着の前を開けて有り余った袖は捲ってある。そういえば、俺は部活から帰ってきてすぐに寝てしまったんだった。俺の汗の染み付いたTシャツ着るなんて、なんて悪趣味な奴なんだろうか。
それから今着ているキツめのシャツが自分の物ではなく名前の物だという事にすぐに気付いた。この制服のスカートもだ。それは当たり前か。
名前風に言うとこうかんこ、とかそんな感じか。
ふざけんな。

俺は立ち上がってとりあえずスカートを脱ごうとした。が、名前に腕を掴まれてあっさり阻止された。名前の細い腕のどこにこんな力があるのか、本当に不思議でならない。

「修也可愛い、似合ってるよ」

「うるさい、見るな」

何が、可愛いだ、そんな事言われても全く嬉しくなんてない。
やたらとスースーする下半身が気持ち悪かった。
名前は俺を見て満足気に笑っていた。
好きな奴に腹が立ったのは初めてかもしれない。

羞恥に身を焦がしていると、名前に俺を部屋にある全身鏡の前に立たされた。
鏡にはスカートを履いた自分が居て、それはとても受け付けられる物ではなく目を反らすと名前に耳元でまくし立てられた。

「恥ずかしい?」

「当たり前だ」

「可愛いのに、あ、内股になってる」

「しょうがないだろ」

下から入ってくる空気に慣れなく自然と足を閉じてしまうのだ。恥ずかしさが絶頂に達する目を瞑った。

「む、つまんないの」

名前もどうせ飽きるだろうと推測して時間が経つのを待った。
しかしそれは名前を甘く見ていた俺の誤算であった。

いきなり背中に腕を回されて抱き締められた。時々背中を撫でられる。そこまではよかったんだ。そこまでは。

その手が不意に尻に触れた。俺はビクッと体を震わせる。

「や、やめろ」

名前は俺に構わず尻を撫で続けた。俺の胸板に顔を埋めてクスクス笑っている。俺の反応を楽しんでいるんだと思う。

自分より小さい奴にこうも弄ばれ、悔しい事この上ない。しかも名前は女だぞ?なんだこの状況は。

相変わらず俺は名前の尻撫で攻撃を受け続け、必死にそれを耐えていた。

「飽きた」

その一言で手が止まった。
俺はやっと解放されるとホッとしていたら、名前に押し倒された。ベッドがギシリと軋む。冒頭の体勢に戻った。
名前が俺を至近距離でまじまじと見下ろす。手首をガシッと捕まれて一つの隙も無い。ぶかぶかの俺のTシャツを着て屈むから胸元からブラジャーが丸見えで俺は急いで目を反らした。

「いけない事してるみたい……」

名前は完全に陶酔しきったようにうっとりした表情を浮かべていて、ちょっとドキッとしたのは否めなかったが、身動きも取れない状況とこれから起こりうるであろう事にただただビビっていた。
そんな中で名前は場違いな大きな欠伸をした。
俺は思わずきょとんとしてしまった。するといきなり俺の太ももに名前の手が伸びてきた。
例の如く撫で回される。

「筋肉質で良い足だ、流石修也」

「んっ、や、やめて、くれ」

「やーだ」

即答された。空いた手で名前の手首を捕むも全く意味をなさなかった。

「う、あ」

変な声が出る自分が気持ち悪いし情けない。
俺の思いとは裏腹にだんだん行為はエスカレートしていった。
まさかとは思ったが、名前がスカートの中に手を入れてきた。

「おおお落ち着こうな、名前、ちょっとそこはだめだと思うぞ」

しかもちょっとたってるし、いやまあ全ては一連の猥褻行為をしてきた名前の所為だし健全な男子中学生にしては我慢した方だと思う。
決して俺を責めないでくれ、寧ろ褒めるべきだ。

「修也……」

熱っぽいとろんとした目で見つめられ、名前が顔を近付ける。
瞬間的にキスされるのだ、と感じ取る事が出来た。
多分、これで俺はもう我慢の限界が来て、歯止めがきかなくなると予測する。

全部名前の所為だからな、と心の中で忠告して目を閉じた。

しかしいつまで経っても感触もなにもなかった。
この期に及んで恥ずかしがってたりしてな、と思っていたら胸にすとんと何かが落ちてきた。
何かと思って目を開ければ、スースーと可愛い寝息を起てて名前が俺の胸板で寝ていた。

飽きれるのも忘れてその眠りに着く早さに感動を覚えた。

それにしても今までの変態的行為をしていた事なんて考えられないくらい可愛らしい寝顔だった。
俺は一度唇にキスを落として、全ての報復として首筋にキスマークを付けた。


しかし俺には脱力感と虚無感が残った。

俺はそれを埋めるように名前をぎゅっと抱き締めたが、俺のジャージの汗の匂いがして悲しみが倍増した。
しかもこんな格好で、傍から見たら俺が変態だと思うとどうしようもなく悲しくなった。

早くトイレに直行したい。


(20101110)









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