最近ヒロトが足りない。
そんな気持ちが私の中で渦巻いている。なんというか会えない訳ではないんだけど、二人きり、というのが全くといっていいほど無い。だから、その、恋人的行為がおざなりになってしまっている。

最初は両想いになれただけで嬉しかったのに、やっぱり欲が出るものなんだなあ。
欲。ぶっちゃけてしまうと、ヒロトと久しぶりにキスしたいって事だ。

ちくしょう、女の子にこんな事言わせておいてあんなに涼しい顔でヒロトはサッカーしてる。殴りたい。まあ、かっこいいんだけど。あー、恥ずかしい。

さて、本題に戻るが、ヒロトとキスするにはどうしたらいいだろうか。まず二人きりという環境作りから始めてみてはどうだろう。それはいい考えだ。
頭の中で自問自答を繰り返す私は痛々しい、緊張してるとも言える。

二人きり……か。
この練習が終わったらすぐに夕飯で、そうしたらもう消灯時間だし、ああ、こんな事ならヒロトがFFIの代表選手に選ばれなければよかったのに、とそんな最低な事まで頭に浮かんでくる私は彼女失格だと思った。本当に悲しくなる。
ろくにマネージャーの仕事もせずベンチに座って頭を抱えてるこんな私が彼女なんてヒロトが恥ずかしくなっちゃうと思ったので、嫌な気持ちと一緒に溜め池吐いて顔を上げたら、隣にヒロトが居た。私は驚いて全身をビクッと震わせてしまった。

「そんなに驚かなくてもいいじゃないか、もう練習終わったよ」

周りを見渡すとみんなが居なかった。多分宿舎に戻ったんだと思う。
………、え!今、ふ、二人きりじゃん!
私は願ってもみなかったこの状況にまだ心の準備が出来てなかったみたいで心臓がばくばくしていた。

「どうしたの?すごい目泳いでるけど」

「名前らしくないね」なんて言ってヒロトがクスクス笑っている。お前のせいだよ全くもう!

「ほら、みんな待ってるから、早く行こう」

ヒロトが立ち上がって手を差し伸べた。こんな絶好のチャンス逃してたまるか!、と私は慌ててその手を引っ張った。

「待って!」

「おっと」

「あ、ご、ごめん!」

私のせいでバランスを崩してしまったヒロトがベンチに尻餅を付いて目を丸くして私を見た。

「おしり痛くない?」

「あ、うん、大丈夫だよ」

「よかった」

私はヒロトの手を握ったままだった。恥ずかしいけど離したくなくて空いていた右手も使ってヒロトの手を包むように握った。

「なんだか、今日の名前は本当に変だね」

「ヒロトのせいだから」

「どうして?」

私は自分の気持ちを言い出せずに俯いた。私の熱いくらいの手とヒロトの冷たい手が相まってだんだんちょうど良い温度になっていく。
私の頭をヒロトが優しく撫でた。

「言ってごらんよ」

まるでお母さんみたいな包容力を醸し出していた。私は勇気を振り絞って俯いたままたどたどしく口を開いた。

「最近さ、寂しいんだ、ヒロトと一緒じゃないから」

「そうかい?毎日一緒だと思うんだけどな」

「二人きりじゃないじゃん、みんなが居たらしたい事もできないんだもん」

「したい事って?」

「くっついてちゅーしたい」

私がこんな台詞を口走った事に自分でも驚いた。私が握っているヒロトの手と私の頭を撫でるヒロトの手のおかげで言えたんだと思う。
そう思った時にはもう私の頭を撫でていたヒロトの手は止まっていた。多分ヒロトの方が私より驚いているんだと思う。普段私はこういう事を言わないから。だから想いが爆発したのかな。なんだか沈黙が嫌で嫌で自棄になってしまいヒロトの顔も見ずにまた私は変な事を口走った。

「ふれんちきすでもいいんで、ちょっと付き合ってくれませんか、お願いします」

「なんで敬語なの」

「緊張してんの!」

ヒロトがクスクス笑った。柔らかくなった雰囲気に安心して私は顔を上げると真剣な表情をしたヒロトと視線が交わった。全然予想してなかったから私は瞬間的にどきっと心臓が大きく跳ね返った。その後、ゆるく握っていたヒロトの手がするりと私の手から消えたかと思った、刹那、ヒロトが私抱き寄せた。ヒロトの匂いと汗の匂いがした。

「ごめんね、名前の気持ち全然わかってなくて」

ヒロトの声が聞こえなくなりそうなほど心臓の音が大きい。ヒロトが私の髪を撫でた。

「俺はさ、名前と一緒に居るだけで満足してたんだ、そりゃあ、たまにキスとかしたいなとか思ったりするよ?だけど名前が嫌がったらどうしようって思うと……、出来なかった、ごめん」

「嫌がる訳無いよ」

私がぎゅっと抱き返すとヒロトがふんわり笑った。

「だからすごく嬉しいよ」

「私も」

私とヒロトは見つめ合った。あと少しで唇と唇が触れ合う距離でヒロトが口を開いた。

「ねえ、名前、フレンチキスってね、こういう事をいうんだよ」

言葉を発する暇も無くヒロトが私の唇を塞いだ。フレンチキスじゃなくて、ディープなやつだった。くらくらする。酸素が足りなくてヒロトの胸板を弱々しく叩くとヒロトが名残惜しそうに絡めた舌を離した。

「ふれんちきすじゃない……」

「本当はね、フレンチキスってディープキスの事なんだよ」

「ええ、嘘だー」

「本当」

「まあ、いいや」

「嬉しかったから、でしょ?」

「うるさい」

またクスクス笑ってヒロトが「素直な名前は一瞬だったね」とか言うもんだから私はヒロトをもう一回ぎゅっと抱き締めた後ヒロトから離れた。寂しいけど素直になれない乙女の性なんです。

「じゃあ、行こうか」

「うん」

手を繋いで宿舎に向かっているとヒロトがこんな事を口にした。

「抱き締めるくらいならみんなの前でも出来るよ」

「出来るか!!」

「ふふ、恥ずかしがり屋なんだから、名前は」

「恥ずかしがってなんかないし」

「顔真っ赤だけど」

「夕日のせいですー!」

いつもは真っ白なヒロトの肌も頬が赤く染まっている気がした。夕日のせい、ではないと思うんだ。だって私は顔、熱いもん。

二人で真っ赤な空を見上げながら宿舎に帰ったら、みんなに冷やかされた。手を繋いだままだったんだ。穴があったら入りたかった。それなのにヒロトが見せつけるようにほっぺにちゅーしてきたから私は顔からグランドファイヤが吹き出そうになった。
死ぬほど恥ずかしいけど多分これが幸せなんだろうと思った。



心はとっくのとうにイグニッションしています!



(20101018)









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