「皇帝ペンギン2号!」

有人の指笛を合図に振上げた右足は綺麗にボールに当たり佐久間と文句無しな連携プレーをこなした私。今日はなかなか調子が良い。
しかしこのシュートを止めるのはキングオブゴールキーパー、略してKOGの源王(初めて呼んだ)。だから入るか、源田が止めるかどきどきなのである。実力はどっちが上なのか、わくわくなのである。

そんな私の気持ちなんかこれっぽっちも汲まずに、源田はいきなり倒れた。鼻血を噴出しながら後ろに。勿論シュートは難なくゴール。

それなりに怒りは湧いたが今は結構緊急事態だ。私達は源田に駆け寄った。面倒見の良い辺見がティッシュを持って来た。

「源田大丈夫?!」

「大丈夫か!」

みんな口々に言葉を投げ掛けた。一方源田はティッシュで鼻を押えたまま動かない。うん、安静にするのはいい事だ。

「ねぇ、なんで鼻血なんて出したの、チョコいっぱい食べたの」

私がそう言った瞬間源田の肩がビクッと跳ねた。何故にこんな仕草をしたんだろう、ちょっと気持ち悪い。源田は私に何も言わなかった。その代わり私の隣に居た有人のマントの裾をくいっと引っ張り有人に耳打ちした。なんでそんなに乙女的行動をするの。多分みんな私と同じように引いていると思う。

「源田きも」「名前ちょっと来い」

「え、うわっ」

耳打ちの終わった瞬間、有人は私の腕を引っ張りずかずかとコートの芝生を踏み荒らすように早足で歩き出した。そして更衣室に直行するや否やドアの鍵を閉めた。私は有人のただならぬ雰囲気にぞっとして有人と距離を取ったがすぐに端のロッカーに追い詰められた。

「な、なんのつもり」

「お前、忘れている物は無いか」

有人の言っている事が理解出来なかった。忘れ物……?無いと思うけど、ていうか忘れ物だけでこんな剣幕になるだろうか。流石の有人でもそれは無い。私がたくさんの疑問符を頭に浮かべていると有人が呆れたように溜め息を付いて私の太ももをズボンの上から人差し指で突いた。

「え?」

また有人の行動が理解出来なかった。すると有人が何を思ったかズボンの裾から手を入れてきた。

「わっ」

我ながら色気なんて全く無い声が出た。有人が言いにくそうに口を開いた。

「ほら、忘れている物あるだろ」

私のズボンの裾をペラペラ捲る有人。どきどきしながらそれを見てたらある重大な事に気が付いた。

「ああああー!」

「やっとわかったか」

有人がズボンの裾から手を離した。

「スパッツ履くの忘れた……!」

同時に私は源田が鼻血を出した原因がわかり、目の前に大好きな有人が居る事にめちゃくちゃ恥ずかしくなった。

「有人、見た?」

「俺は見てない」

よかった。私は胸を撫で下ろした、のはいいが有人が苛立ちを見せて私をロッカーに押し付けた。

「お前、俺の彼女っていう自覚あるのか」

「そりゃもちろん」

「それにしては無防備すぎるな」

「ごめん」

有人が私の頬に手を添えた。冷たい。

「そんな顔するな」

やっぱり有人は優しい。と思っていた。3秒後の有人の発言を聞くまでは。

「お仕置き、しにくいだろう」

「はい?」

「2つ用意した、選べ」

私が困惑したまま有人は事を運んだ、すごく良い笑顔をしていた。サッカーしてる時より生き生きしているかもしれない。

「名前からキスするか、ここでスパッツを履くか」

「生着替え!?」

「ああ、そうだが?」

「出来る訳無いでしょ!」

「じゃあキスだな」

「えー」

「お前が源田に見せたのが悪いんだろ」

「不可抗力じゃん」

「事実は事実だ」

有人に言い返す事が出来ず有人を睨んだ。睨んでも有人は笑顔のまんま。優しくなんてなかった。

「有人からすればいいじゃん」

「お前からするのに意味があるんだ」

ほら、と有人は私に顔を近付ける。唇と唇があと少しでくっつくくらい。ゴーグルの奥の真っ赤な瞳がチラリと見えて私の心臓のスピードがまた速度を上げた。私は腹を括って触れるだけのキスを有人にした。それも一瞬。そっぽを向く私はきっと顔が真っ赤っか。

「んー、まあいいだろう」

「なんだそれ」

恥ずかしいけど有人を見た。有人はどこかの悪い王様が浮かべる様な笑顔だったが、なんだか物足りないという口振り。私はそれに嫌な予感がした。

「名前」

私の名前を呼んでゴーグルを外す、それが長くて深いのをする時の有人の合図。

私の嫌な予感はよく当たる。

そんなに、嫌じゃないけど。



(20101015)









人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -