夕飯を食べ終え自室に戻り少し読書した後トイレに行った。 「あ、鬼道」 「おお」 先客に風丸が居た。さっと用を足して二人でトイレを出た。廊下を歩いていると不可解な声が聞こえた。何だか無駄に甲高い。 「おい、今の聞いたか?」 「ああ、どこからだろう」 風丸も聞こえたらしかった。俺達は足を止め耳をそばだてた。 「あー」 女の、高い声がする。俺がそれを辿って行き着いたそこは、 「ここ、じゃないか?」 豪炎寺の部屋だった。風丸がドアに耳をくっ付けて目を見開いた。どうやら聞こえたらしい。 「あいつら、いくらラブラブだからって……!」 「何考えてるんだ、お前は」 「何って……」 風丸は顔を赤くした。こいつまじで思春期だな。俺もドアに耳を当てた。時々聞こえる声にどきどきした。 「何やってんだ、お前ら」 突然後ろから声が聞こえて俺達は心臓が跳ねた。振り向くと不動が居た。不動は俺達の真似をしてドアに聞き耳を立てた。すると不動は口角を上げてニヤニヤし始めた。 「あららー、お盛んだねぇ」 不動がそう言った後すぐどこかに行くと思ったが意外にもドアに張り付いていた。こいつも男なんだな、と変に実感してしまった。 「君達、何してるんだい?」 「何かあるの?」 今度はヒロトと緑川が通り掛かった。俺はドアに耳を当ててみるよう伝えた。声が二人に届くと緑川は吹き出す一方でヒロトは嬉しそうに笑みを浮かべていた。 「名前ちゃんたら、この間まで手繋ぐのも恥ずかしそうにしてたのに、成長したんだね……!」 「お前は名字の何なんだ」 俺は思わず突っ込みを入れた。 「あー気持ちいいー」 「名前ちゃんって意外と声出すね」 「ヒロトの変態!」 緑川がヒロトの頭を叩いた。 「いたた、緑川も聞いてるくせに」 「だって、気になるじゃないか」 緑川が恥ずかしそうにしているのをヒロトが笑っていた。その後染岡と吹雪、綱海と土方と一年組もやってきた。ここを通って一度ドアに耳を当てると誰もが離れなかった。しかし唯一例外が居た。飛鷹だ。俺は飛鷹の興味無さげに去っていく後ろ姿に漢として敬意を示したいと思った。 「こっちもしてー」 「こっちってなんだ!?どっちなんだ!?」 「染岡くんも興味津々だね」 「うるせえ!吹雪もじゃねえか!」 「まあね」 吹雪がクスクスと笑った。 「いたっ」 「すまん」 「豪炎寺の下手くそ!名前が痛がってるだろうが!」 「綱海、落ち着け」 「これが黙ってられっか!」 「押さないで下さいっすよー!」 綱海が暴れる所為で壁山とみんながドアに押し付けられた。ドアがそのの重みですごい音を立てて軋んだ。 「綱海落ち着け!」 「名前ー!!」 俺の二度の制止も虚しくドアの蝶番が外れるのを俺は見た。全員ドアと一緒に前に倒れた。 「うわああああ!」 「ぎゃああああ!なにしてんの!みんなして!」 「おお」 豪炎寺と名字の前に倒れただろう俺達を見て二人が声を上げた。 「俺は何も見てないぞ!」 そう言って風丸は隣で目隠ししながら伏せていた。俺も見てはいけないと思って床に伏せたままにしていた。すると体に掛かる重さが少なくなってきた。 「あれ?」 俺の上に乗っかっていた奴らが素っ頓狂な声を上げた。何かと思って恐る恐る顔を上げると予想していた光景と全く違っていた。俺は隣の風丸も起こし立ち上がった。目の前には、ベッドに腰掛けている豪炎寺の膝の上に頭を乗せた名字が居たのだ。みんなぽかんと呆気にとられながら二人を見ていた。 「ちょ、そんなに見ないでよ、恥ずかしい」 名字は豪炎寺の腹に顔を向け体を反転させた。豪炎寺は名字の髪をかき分けるように撫でた。 「僕、そんな体位初めて見たよ」 「正気かお前!」 緑川がヒロトを結構な力で蹴った。ヒロトが1メートル程飛んだように見えた。 「なあに、修也、たいいって」 「さあ、わからない」 「修也にもわかんない事ってあるんだね」 そして豪炎寺がずらりと並ぶ俺達を一瞥して言った。 「というか、お前らはなんなんだ」 一同が一斉にびくりと肩を震わせた。その中で一人不動が口を開いた。 「いやぁ、てっきり豪炎寺クンと名前チャンがセッ」「わああああああああ!!」 「うっせえよ、鬼道クン」 俺は必死に不動の不適切な言葉を掻き消した。 「修也ーこっちもやってー」 名字が何かを催促すると一人過剰反応する奴が居た。 「なっ、ひ、人前でだと!?俺はそんなの許さねえ!」 「なに言ってんの、綱海にーに」 「豪炎寺!さっき一体何をしてたんだ!」 「何って、耳かきだが?」 豪炎寺が耳かき棒をどこからか取り出して言った。 「耳かき!?」 「うん、修也にやってもらってたの、気持ちいいんだ」 「なんだー」 みんな脱力して言いこの部屋を出ていった。俺はというと未だに精気が抜けたように呆然と一人立ち尽くしていた。すると名字に声を掛けられて意識が戻った。 「鬼道、ところでほんとになにしてたの?」 名字が豪炎寺に耳かきをしてもらいながら言った。時々ドアの向こうで聞いたような声を出すから俺は少なからず反応してしまう。あ、決して小さい俺が反応したという訳ではないから安心してくれ。と、俺はどうでもいい事を考えながら言い訳を探していた。 「え、いや、あのな、みんなでドアに張り付いて、」 「張り付いて?」 「……ドアの気持ちになってたんだ」 凍り付いたような空気が流れ、二人の視線が俺に刺さった。ああ、こんな見え透いた嘘すぐばれてしまうだろう。俺は今にも倒れそうだった。 「そうなんだ!」 「なかなか面白い事してるんだな」 あれ?ばれてない……?あ、そうだった。俺は忘れていた。この二人が重度の天然だという事を!ありがとう、天然カップル!俺は心の中で狂喜乱舞していて現実ではまだ直立不動していた。 「あれ?鬼道?」 「あ、あああ!そうなんだよ!意外と面白いんだよ!」 「今度私もやりたい!修也も一緒に!」 「ああ、是非参加してくれ、じゃあ、おやすみな」 「うん!おやすみー!」 「おやすみ」 俺はあくまでも爽やかに手を振りこの部屋を後にした。 なんだかんだでみんなお前らを応援しているぞ! 俺は一人廊下で二人にエールを送った。 (20101006) |