私は両手いっぱいにさつまいもを抱えて足を速める。近所の公園で焼き芋をしようと、風介と晴矢に誘われたのだ。公園に着くともう二人が大量の落ち葉をかき集めてこんもりと大きな山が出来ていた。そのてっぺんから煙が出ていてもうほとんど灰に近い状態になっていた。


「風介ー、お芋持ってきたよー」
「おお」
「よくやった!名前!」
「晴矢の分は無いよ」
「はぁ!?おまっ、そりゃねえだろ!」
「うっそー」
「うざっ!」
「いいから二人とも芋をこれで巻け」
「了解であります!」
「お前明らか態度ちげえな」


晴矢が何かぶつぶつ言っているがそれを無視して私は風介からアルミホイルを受け取ってお芋を包んだ。


「男だったら巻かずにそのままぶちこめ!」


いきなり立ち上がって胸の辺りで拳を握りもう片方の手を横に真っ直ぐ伸ばすという痛いポージングを取って晴矢が叫んだ。そして本当にお芋を何個が灰の中に投げ込んだ。


「え、何この人馬鹿なの?」
「いつもの事だろう」
「そうだったね」
「馬鹿じゃねえ!おい!風介!そんなのに包まれたやわな芋食べるとか恥ずかしくねえのかよ!」
「いや、私は別に思わんが」


風介に一蹴されていじけたのか、晴矢は少し離れた所で地面に何かを指で書いていた。私と風介は残りのお芋を全部包んで灰の中に入れた。


「美味しいのが出来るといいね」
「そうだな」


風介は晴矢の方へ歩み寄って肩に手を置いた。多分慰めてるんだと思う。風介は本当に優しい人だ。うっかり惚れてしまいそうになるよ。何回か晴矢が大きく首を振った後風介に首ねっこを掴まれて無理矢理引き摺られて私の方に戻ってきた。その光景をしゃがみながら見ていた私は正に抱腹絶倒していた。


「わっ、笑うんじゃねえよ!」
「晴矢がいじけたとか!ちょっと可愛い!あはは!」
「名前、あんまり言うとまたさっきみたいになるからやめろ」
「はーい!」
「何も言えねえ……」


私達は正面から見て右から風介、私、晴矢の順でブランコに乗った。四人掛けだから一つ空きが出来た。


「勝負だ!」


晴矢がまたいきなり叫んだ。今度はどうしたんだ。


「は?」
「望むところだ」
「え、風介まで何言ってんの」


晴矢と風介がブランコの踏み台を背中まで上げて勢い良く助走を付けて漕ぎ始めた。両側からの風を切る音がすごい。


「俺の方がたけーだろ!」
「何を言っている。私の方が高い」
「はぁ!?俺のがたけえし!俺の勝ちだ!」
「違う、私の勝ちだ」
「お芋まだかなー」


この二人の不毛な争いにはもう飽き飽きだ、ブランコとか小学生か。私は自分のペースにブランコを漕いだ。両側の二人はいつの間にか立ち乗り対決に変わっていた。


「はぁ、はぁ」
「なんだ風介、もうバテたのか?」
「うるさい、晴矢だって鼻息荒くて気持ち悪い」
「気持ち悪いは余計だろ!」
「もう二人とも、結構ぶっ続けでやってるから止めなよ、晴矢気持ち悪いし」
「だから気持ち悪いは余計だろ!!」


晴矢がブランコからジャンプで降りて私と風介の頭を順番に叩いた。


「いたっ!」
「痛」
「ふんっ、俺が受けた心の痛みに比べればそんなの、」「名前、もういいんじゃないか、芋」
「そうだね!なんかいい匂いするし!」
「最後まで聞けよ!!」


私と風介はシャベルでお芋を掘り起こした。晴矢が「俺は素手でいく」とか言っていてそれは流石に止めさせた。


「あ、裸芋発見」


私はシャベルに乗っているアルミホイルで包まれていないお芋を晴矢に渡すためお芋を掴もうとそれに触れた瞬間、私の身体に衝撃が走り抜けた。


「あっつ!」
「あ、馬鹿!」
「大丈夫か!」


晴矢が私の手首を掴んで水飲み場まで引っ張って行った。それまで痛かった指先にジャージャー水が掛かり痛みが和らいだ。


「焼いたばっかの芋に素手で触る奴がいるかよ」
「晴矢だって素手で取ろうとしてたじゃん」
「それはあれだ、うけ狙いだ」
「最悪だな」
「本当だよ、おかげで火傷しちゃったよ」
「なんでお前らはそうやって俺を悪者にしたてあげようとすんだよ!」


私は風介と二人で笑った。晴矢は溜め息吐いて蛇口を閉めた。


「大丈夫か?」
「うん、もう痛くない」
「そうか、よかったよかった!跡残ったら困るもんな!」
「名前も女の子だからな」
「一応な!」


私は晴矢のお腹に一発回し蹴りを食らわせた。


「いってえ……」
「今のは晴矢が悪い」


私達はお芋を持ってまたブランコに乗った。私はお芋を二つに割った。すると綺麗な黄色が視界に飛び込んできた。食欲を掻き立てる匂いと一緒に。


「わー、美味しそう!」
「やべえな、これは……」


ごくり、三人で唾を飲み込んだ後一斉に食べ始めた。


「超美味しい!超ほくほく!」
「まじうめえ、ちょっと灰邪魔だけどな」
「うまいな」


私達は焼き芋に夢中になった。私が一つを食べ切った頃には風介と晴矢は二つ目の半分以上を食べていた。


「よく食べるね、私お腹いっぱいだよ」
「俺もこれでぱんぱんだ」
「私はもう一つ食べる」
「風介、意外と大食いだね」
「俺もびっくりだぜ」


未だに焼き芋を食べている風介はそのままに、私と晴矢で後片付けをした。余った焼き芋は晴矢持参のスーパーのビニール袋に入れた。そして晴矢が黙ってそれを奪い取った。不覚にも晴矢がかっこいいと思った。


「楽しかったね」
「だな」

そうして二人で笑い合った。


「ごちそうさま」


こちらからブランコの上で手を合わせた風介が見えた。お行儀いいね。


「じゃあ、帰るか!」
「うん!」


私は風介にそれを伝えて三人で公園を後にした。風介は晴矢が持っている袋の中からまた一つ焼き芋を取り出して食べながら帰った。

三人の影が仲良く並んで歩いていた。



(20101004)









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