残ったバナナの皮を眺めていたら心臓の動きもだんだん正常になってきた。そして不動にやられた事に沸々と怒りが湧いてきた。私はゴミ箱にバナナの皮を投げて言った。 「仕返ししてやりたい」 「お!やったれやったれ!」 一番最初に乗ってきたのは綱海にーにで、にーには私以上に燃えていた。 「しかし、仕返しといっても何をするんだ?」 風丸が指摘した。何だかんだ言って皆仕返しには賛成なのか。争いは何も生みませんよ!とかほしかったなぁ。やるけど。 「どうしようかなぁ」 「名字、あれはどうだ?」 私がどうしようか迷っていると豪炎寺がさっきまで不動が座っていた席を指差した。不動の席には不動の食べ終えた皿が残っていた。あいつは自分のお皿を下げるという感覚が無いんだろうか。 「あ!」 その皿をよく見るとまだそこに乗っている物があった。それは私も以前何回か見てきた物だった。私は不動の席まで行ってそれを手に取った。 「不動はトマトが嫌いなんだ!」 これを不動に食べさせてやる、と意気込み食堂を出た。ダッシュで不動の部屋まで行って扉をノックした。 「入るよ」 扉を開けると不動がベッドで寝ていた。扉に鍵を掛けずに寝るなんて意外と無防備な奴なんだと思った。これは好都合だ。いつもは一筋縄ではいかない不動も寝ていれば抵抗出来ないだろう。溢れ出る笑いを抑えて私は不動の半開きの口にトマトを突っ込んだ。 「うがぁ」 不動が情けない声を上げて飛び起きた。ミニトマトだからまだトマトらしい味は噛んでいない限り出ていないのにこれだ。相当トマトが嫌いなんだな。私は不動の反応に腹を抱えて笑っていた。 「バナナの仕返しだから!」 「てめえ……」 不動がよろよろとこちらに詰め寄ってきたが私はさっさと部屋を後にしようとドアノブに手を掛けた。しかし私の手を不動が掴んでドアノブを回す事を阻止した。そして不動はドアノブから指を一本一本離させ片方の手も掴んだ。 「は、離してよ!」 「言っとくけど、さっきの全部演技だから」 「え?」 そう言った後不動が出した舌の上には無傷のトマトがあった。 「あっ」 「覚悟しなよ?名前チャン」 不動の顔がどんどん近付いてきたから私は顔を反らした。しかし、不動が私の腕から手を離し腰に回してもう片方の手で私の頭を乱暴に固定した。そして不動に口を口で塞がれた。反射的に不動の胸を力いっぱい押したが不動は微動だにしなかった。私は必死に口を固く結んだけれど一瞬の隙を付いて不動の舌がトマトと思われる丸い物と一緒に侵入してきた。それから不動が私の歯にトマトを押し付けてきた。そしてプツンと音を立ててトマトが割れた。そこからどくどくと液が流れる。不動がすぐに口を離して舌打ちした。 「ちょっと舐めちまった」 「ざまあみろ」 私は放心状態の中で悪態を付いて不動を睨んだ。 「おお、怖い怖い」 「だって、初めてだったんだぞ」 私は口の中のトマトを噛み締めながら言った。さっき食堂で食べたトマトはわりと甘かったのに今食べているトマトは何故か酸っぱかった。その所為か涙腺が刺激された。 「………、悪かったな」 「え」 不動が謝るなんて思ってもみなかったから私は驚いた。ばつが悪そうな不動と目が合った後思わず吹き出した。それと一緒に涙も溢れてきた。私はそれをジャージの裾で拭った。 「な、なんだよ」 「不動らしくなくて」 「俺らしいとか、俺の事なんも知らねえだろ」 「不動の事ずっと見てるからわかる」 「はぁ?どういう意味だよ」 「何が?そのままの意味だよ」 不動はポカンと口を開けたまま無言になった。だから私は不動を急かすように見た。 「お前さ、サッカー馬鹿だろ」 「サッカーは好きだけど?」 不動は頭を掻いて呆れたように溜め息を吐いた。 「あのな、多分それ、お前俺の事好きなんだよ」 「は、何言ってんの、不動見ると胸苦しくなってくるし絶対違うよ」 不動は何故か掌で自分の顔を覆った。耳が真っ赤だった。こうして見ると意外と不動は色が白い。 「本当、お前馬鹿だな」 そう言った不動は珍しく普通に笑っていた。今まで悪い笑みしか見た事が無かったから新鮮に感じられた。また心臓がうるさい。髪がくしゃくしゃになるくらいに不動に頭を撫でられた。またまた心臓がうるさい。 「心臓痛い!」 不動の手を払うと不動はいつもの悪い方の笑みを浮かべた。 「もう味消えただろ」 不動が不意討ちで私にキスした。さっきので私の抵抗力は0だったから今度はすんなり入ってこられた。酸素が足りなくなって朦朧となる意識の中、唇が離され不動に抱き締められた。 「俺はお前の事好きだ」 「苦しい、離せ」 そう言っても不動は離してはくれずに更にぎゅっと抱き締めた。 「なんで離してくんないの」 「いつかわかる日が名前チャンにも来るんじゃねえの?」 「今すぐわからせて」 「真性の馬鹿だから時間がかかんだよ」 「馬鹿馬鹿言うな」 不動は少し考えたような顔をした後またキスをした。一生不動なんかから感じ取る事が無いだろうと思った優しさを含んだ物だった。離してくれない事とか、好きとか、心臓がうるさい事とかが3分の1くらいわかった気がしたかもしれない。もっと詳しくはヒロトに聞こうと思った。不動の黒いTシャツの胸の辺りを皺が残るくらい握った。 (20100929) |