気だるく板書をノートに写す。あー、早くこんな授業終わればいいのに。嘘、ちょっと続いてほしい。何故かといえば隣の席が豪炎寺くんだからだ。チラリとそちらに目を傾ければ熱心に授業を聞いているようだった。抜群にかっこいい。あまりにもかっこよすぎる。最初から授業なんて半分聞いてるか聞いてないかわからない程度だったが、もう全く頭に授業が入らなかった。 そうだ。私はある事を思い付き筆箱から消しゴムと黒いペンを取り出した。 ゙豪炎寺くん゙……っと そして私は消しゴムに豪炎寺くんと書いた。計画性が無いので゙くん゙が異常に小さくなってしまった。 そう、所謂消しゴムに好きな人の名前を書いて誰にも触られずに使い切ると恋が実るというやつである。 頑張って使いきろ、とボーッと消しゴムを人差し指と親指で挟んで顔の近くで眺めた。その時、私の指からスルリと消しゴムが抜け、机にバウンドした後床に落ちた。 幸先悪いなあ、と思いながら消しゴムを拾おうとすると横から手が伸びてきた。 「えっ」 只今思考停止中。あああ、冷静になれ、私。と言っても、隣の豪炎寺くんに落ちた消しゴム拾われたのだ。豪炎寺くんの優しさが仇となってしまった。うわあああ、冷静になんかなってられない。早く見られない内に返してもらわないと人生終わる。 「ああああありがとう」 私は豪炎寺くんの体勢がまだ傾いたまま消しゴムを奪った、はずだった。私の手はまた虚しく空を切った。豪炎寺くんがまじまじと消しゴムを見ている。うわ、うわ、もう死のう、私遺言書でも書くか。耳まで顔が赤くなる感覚を覚えた。私はもうどうにでもなってしまえ、と机に突っ伏した。 「名字」 隣に顔を向けると豪炎寺くんが消しゴムを差し出していた。ああああああ、見られた、見られたんだ、どうしよう、まじで死のうかと思いながら目を合わさないようにそれを受け取った。 「お前はそっち使え」 「え?」 私は掌の上の消しゴムを見た。豪炎寺くん、と私が書いた字は無く代わりに綺麗な字でこう書かれていた。 名字 私は豪炎寺くんの方に向いた。豪炎寺くんは私に消しゴムの私が書いた豪炎寺くんと文字が入った方の面を見せるように持って口角を上げた。 豪炎寺くん、それちょっと間違ってる、と思って私も笑った。 二人で使いきりましょう。 (20100927) |