教室の真ん中辺り、俺は前の席の名字の後頭部を見つめていた。まさにその時名字がいきなり振り向いてきて俺は頬杖から顔がずれ落ちそうになった。

「風丸ってさ、可愛いよね」

「え?」

振り向いて突然そう言われたので俺も声が大きめになる。しかし、好きな人からの可愛い発言はとても複雑だった。嫌われている訳では無いのだろうがやはりかっこいいの方がいい。

「女の子みたい、髪長くて」

そう続けられるとますます恋愛対象から駈け離れているのかと思い知らされ悲しくなった。

「それはあんまり嬉しくないな」

俺は本音を名字に言った。

「そっか、ごめん」

そう言われた後の空気は最悪だった。どんよりと重々しくなってしまって折角名字と話す機会だったのに名字はもう前に体を戻してしまった。どうして俺はいつもこうなんだと自己嫌悪して机に突っ伏して寝た。

授業中に目が覚めた。目を擦りつつ体を起こすと机の端に四つ折りにされた紙があるのに気付いた。俺はそれを広げた。


 さっきはごめん
 

たったそれだけが書かれた手紙だった。多分これは名字の字だ。名字はやっぱり優しいいい奴だ。相変わらず綺麗な字だった。後5分で授業が終わる。授業が終わったら俺も速攻謝ろうと思った。

チャイムが鳴った瞬間俺が声を掛ける暇も無く名字が振り向き俺に手招きした。俺が名字の方に体を傾けると名字は俺の耳元でこう囁いた。

「本当はいつもかっこいいと思ってた」

「え」

「サッカーやってる時とかさ」

そう言われて急に照れがやってきた。多分俺の顔は今真っ赤になっているだろう、恥ずかしすぎる。

「そのギャップが好き」

それは告白と捉えていいんだろうか、聞くのも野暮な物だと思ったし何分心臓がばくばくして何を言っていいのかわからなかったから玉砕覚悟で耳元で囁く名字の頬に周りに気付かれないくらいの触れるだけのキスをした。

「わっ」

名字は頬を両手で押さえて俺から遠ざかった。それを見て俺の胸はチクリと痛んだ。

「す、すまない……」

名字の顔を見ると驚いたような顔をしていてやはりキスされたのが嫌だったんだなと覚悟していたもののショックを受けた。それからすぐに名字の表情が変わった。言うなれば春が来たような笑顔になったのだ。俺はそれに目を見開いて見とれていると次の授業の先生が来た。笑顔の名字が前を向いてしまったので俺は先生を恨む。

自分が名字にキスをしたという事実が頭の中にはびこる。ああ、恥ずかしい、今度ばかりはもう顔さえも合わせられないかと思うと世界の終わりが来たような消失感に襲われた。しかし、さっきの名字の笑顔はなんだったんだろうか、と思っていると名字が四つ折りにした手紙を俺に回した。俺はそれを受け取っておそるおそる開いた。


 後でさっきの続きしてね

俺はガタガタッと椅子から落ちかけそうになった。名字の方を見ると少し俺の方に顔を向けてウィンクをした。俺は一人ガッツポーズをした。

しかし、続きって何をすればいいんだろう。そう必死に考える俺はやっぱり情けない奴だった。



(20100923)









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