今日は佐久間きっての要望で俺と源田とマネージャーの名字も入れてゲームセンターに来ていた。俺はこういう所に来るのは初めてで右も左もわからない、そういった状態だった。

「なーに?鬼道、まさかゲーセン来るの初めて?」

ゲームセンターはゲーセンと略すらしい。

「まあな」

「まじですか」

名字が目を見開く。そんなに驚く程の物だろうか。

「名字、うるさくてかなわんのだが」

源田が耳を塞いで言った。

「同感だ、源田」

「ふふ、それがゲーセンの醍醐味ってやつだ、鬼道、源田」

得意気な笑みを浮かべて佐久間が言った。どうやら佐久間はゲーセンに来た事があるようだった。

「流石佐久間!わかってるぅ!」

「ふふん、まあな、ではさっそくマリカーで一戦交えようか」

「そうこなくっちゃ!」

「マリカーとはなんだ」

「俺もわからない」

俺の質問に源田も続いた。

「あらま、佐久間さん、鬼道さんと源田さんてばマリカーも知らないみたいですよ」

「本当人生損してるな」

「そこまで言われる事か?」

源田がそう言うと佐久間にキッと睨まれて粛正された。正直怖かった。

「まあ、とりあえずやろうか!」

名字の声で俺達は一人一人100円を投入した。

「こっちを選ぶんだな?」

「そうだよ、鬼道は理解がはやいね、流石」

名字に褒められてちょっと嬉しかった。

「あ、間違えた」

「ばっか、源田、お前、独りでプレイとか、きゃははは」

源田はどうやら選択を誤ったようで名字にこれでもかという程笑われていた。心無しか源田が小さく見えた。

「流石源田という所だな」

佐久間が含み笑いをして言った。名字はまだ笑いが止まらないようだった。佐久間がさっさとコースを決めてもうすぐレースが始まるみたいだった。

「よし、負けないぞ!」

「俺のマリカー歴をなめるな!」

名字と佐久間は異常に意気込んでいる。まあ、俺もやるからには一位を目指す。名字の前で良い所見せたいからな。

「源田は独りで頑張れよ!」

名字が源田の肩をポンポン叩いたが源田は終始無言だった。


独りで顔写真を撮られている源田があまりにも可哀相でいたたまれなかった。

俺は操作の確認を一瞬で行う。多分、こういうのはスタートダッシュが肝心なのだろう。

ピ、ピ、ポーン

俺はその瞬間アクセルを踏み込んだら最高のスタートが切れた。

「えっ、うそ、鬼道はやっ」

「なにぃ!?素人には負けん!」

「佐久間、冷静にならないと勝利は遠ざかっていくぞ」

「なっ……」

「うわっ、鬼道の奴、ジャンプドリフト使いやがった!」

レースはそのまま終盤へと差し掛かった。一度佐久間が俺を抜かしたが俺の華麗な烏賊攻撃で佐久間の動きを封じ、俺が一位を勝ち取った。

「ざっとこんなもんだ」

「鬼道すげー!!やっぱ天才だね!」

俺を見る名字の無邪気な目がキラキラ光っていて可愛かった。

「ち、ちくしょう……っ!!」

佐久間は膝を付いて床を殴っていた。何もそこまで悔しがらなくても。

「………、3位だった」

「お、惜しかったな」

コンピューターと戦った源田に俺は労いの言葉を掛けた。

「二人とも!これからが今日のメインイベントだよ!」

名字が俺の腕と源田の腕を引っ張りそのメインイベントとやらがある方向へ連れて行かれた。すると似たような女の写真で遮られた機械が所狭しと並べられていた。

「なんだこれは?」

「プリクラだよ」

「なんだそれ」

「もう、鬼道と源田は知らない事がいっぱいだなあ、プリクラは写真を撮る機械だよ」

なんでわざわざ写真を撮るのに金を払うのか理解出来なかった。

「名字!ここいいかもしれん!」

「おお!ナイス!佐久間!」

佐久間はあれからすぐ立ち直ったようだった。というより、佐久間はプリクラを撮った事があるのか。

「おい、佐久間、お前、プリクラ撮った事あるのか?」

源田が俺の言いたかった事を代弁した。

「あるぞ、たまに名字と撮る」

「うん!一通り遊んだ後の〆的な?」

「そうなのか」


俺は名字と佐久間が二人きりでゲーセンに行っている事を初めて知った。なんだかイライラする。これが嫉妬という物なんだろうか。その感情を抑え込むのに精一杯で俺は何も言わなかった。そんな俺と佐久間は目が合った。そして佐久間はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「あれ?まさか鬼道、ジェラシー感じてるのか?」

ちょうど名字が源田とプリクラの機械の中に入っていったので佐久間は俺に容赦無く言った。

「お前、俺が名字の事好きだっていう事知ってるだろう」

「ははは、鬼道、大丈夫だ、安心しろ」

佐久間は俺の背中をバンバン叩く。何が大丈夫だというのか。佐久間がプリクラの機械に入っていった。苛立ちを抑えて俺もそれに続くとまばゆいばかりの閃光が俺に襲いかかってきた。

「眩しいな」

「そういうもんだからね!」

名字が俺達から100円ずつ収集しそれらを入れると無駄にテンションの高いアナウンスがかかった。

「拒絶反応が出てるのは俺だけじゃないよな?」

「ああ、俺もだ」

今日は源田と俺がいやに気が合う日だった。

「撮るよー!カメラを見るんだぞー!ここだぞ!?源田間違えないでよ?」

「おう」

シャッター音がした。

「うわ!源田半目なんだけど!きゃははは!」

源田がまた名字の笑いの壺に入ったようだった。何回かシャッター音が繰り返される中、俺は腕組みをしていると突然名字が後ろから肩に手を回してきた。

「なっ……」

「鬼道、もっと楽しそうにしなさい!ほらピースとかして!」

「と言われてもだな……」

好きな奴に密着されて体が言う事を聞くと思うか?

「もー!」

名字はそう言うと俺の手を無理やりピースにして顔の近くに持ってこさせた。

「お、おい!」

「あとは笑え!笑って!鬼道笑って!」

至近距離でニコニコ笑う名字を見ていたら俺も自然と笑えてきた。

「そう!それだ!」

シャッター音が鳴る。

「はは、名字は幸せそうだなあ」

佐久間が後ろから言った。

「うん!超幸せ!」

そう言った後抱き締める強さが増したのが嬉しかった。これは期待してもいいんだろうかと思わず考えてしまった。

「それはよかったな」

佐久間はそう言った後源田を連れて外に出て行った。

「おい、あいつら、まだ撮る分残ってるぞ?」

「………、鬼道の馬鹿」

「は?」

馬鹿なんて言われる所がどこにあったんだろう、しかし、俺は俯き加減の名字のどこか切ない顔を見ると途端に申し訳無さを感じた。

「す、すまん」

「この鈍感男!」

そう言うと名字がいきなり俺にキスをした。最後のシャッター音が鳴る。

「え…」

「ご、ごめん!」

「おい!」

そう言って名字が一目散に外に出て行くのを俺は追いかけた。外に出るなり佐久間が満面の笑みを浮かべて拍手をしていた。

「おめでとう、二人とも!あまりにももどかしすぎたからさ!」

名字と俺は顔を見合わせる。しかしお互いにさっきの事を思い出し恥ずかしくなってすぐ反らした。

「鈍感男とか言いつつ、名字も相当鈍感女だぞ」

「えっ……?」

「鬼道、次はお前の番だ」

佐久間はそう言って俺に目配せした。ああ、そういう事か、と俺は納得した。

「名字、俺もお前の事、好きなんだ」

「えっ、うそ!」

「本当だ」

「わああぁ、よかった、嫌われちゃったかと思った」

名字の目に涙が滲む。

「お、おい!泣くなよ!」

俺は両手で名字の涙を拭ってやった。

「ありがとう」

「キース、キース、キース!」

なぜか佐久間と源田のキスコールが始まった。祝ってくれてるのは嬉しいが正直空気を読んでほしいと思った。

「ふっ、聞いて驚け!私、もうしちゃったんだぞ!」

「な、なんだと!?やるな!名字!!」

「ふふん!」

キスコールのおかげなのか、名字がいつも通りの調子に戻ったのでよかった。元気になった名字は佐久間とプリクラにらくがきという物をしてるらしい。源田が近くのベンチにコーラを片手に座っていたので俺も隣に座った。

「よかったな」

源田が微笑して言った。

「ああ、持つべき物は友達だな」

というと源田が

「今は名字だろ」

と言うので俺は少し笑って

「そうだな」

と言った。

「鬼道ー!!」

名字が走ってこっちへ駆け寄ってきた。

「これ、誰にも見せちゃだめだから!」

名字は俺に何か細々した物を握らせた。

「俺はさっき見てしまったがな」

「佐久間のばかー!」

名字から渡された物を見ようと両手を広げるとそれは俺と名字がキスしてる小さな写真だった。

「おお」

「わー!!隠して!隠して!」

名字が俺の両手を閉じさせる。俺はそういえば、と思い名字の腕を引っ張り唇を重ねた。

「おお!」

「ぶふっ」

見せ付けるようにしたセカンドキスはコーラの香りに包まれた。俺は源田を恨んだ。



(20100922)









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