今朝のニュース番組の占いで恋愛運が最高だった。何やらラッキーアイテムはサッカーボールで、憧れの人に近付けるかも?という内容だった。憧れの人と言えば豪炎寺くんだったけど、私はあり得ないあり得ない、なんて思いながら登校した。 放課後ファンクラブの集まりがあったので行くと、豪炎寺くんはいつもかっこいいけどその揺るぎなく滲み出るかっこよさの根源はなんなのだろうとファンクラブの同志達が議論していた。私もそれに参加する。ノートに男前で寡黙でサッカーが上手い、とかを書き出した。もっともだった。でも多分もっと近い存在だったらもっともっといろんな事が知れるんだろうと思った。話もした事の無い私達は表面的な豪炎寺くんしか知らない。そんな考えに至った私は皆のキャピキャピした雰囲気に耐えられずファンクラブを後にした。 サッカーコートの真横を通って帰る。勿論豪炎寺くんを目当てで。やっぱりかっこいい、なんて思いながらとぼとぼと歩いていると切羽詰まった大きな声がした。 「危ない!!」 「え?」 気付いた時には時すでに遅し、ものすごい回転をしているサッカーボールが私の足にぶち当たった。その所為で私は転んだ。 「いったぁ……」 「大丈夫か!」 駆け寄って来た人を見ると、なんと、その人は豪炎寺くんだった。 「うわぁ!」 「お、驚かせてすまん……」 「え、あ、そんな事ないです!すいません!」 驚いて声を上げてしまった。せっかく豪炎寺くんとお話出来る機会なのに上手く話せない自分に嫌気が差した。 「おい、血が出てるじゃないか」 「あ、本当だ……」 私の膝が少し出血していた。 「すまない、俺がシュートを外したばっかりに……」 「そんな!大丈夫です!大丈夫です!これくらい!」 私は緊張で単語を並べるだけで一杯一杯だった。 「立てますし!大丈夫です!」 私は腰を起こすと片膝が痛みでガクッと抜けた。 「いたっ」 豪炎寺くんは私を見た後、他の部員達に「少し抜ける」と告げて言った。 「肩使え」 「え、で、でも」 豪炎寺くんは躊躇う私の腕を強引に肩に掛けた。 「わっ」 「保健室行くぞ」 「あ、ありがとうございます」 憧れの人に密着しているこの状況は正に夢のようだった。ああ、私の顔は多分真っ赤なんだろうな、かっこわるい。 「お前、二年だろ?俺も二年だから敬語じゃなくていいぞ」 「あ、はっ、うん、ありがとう」 知ってるよ、とは言えなかった。なんで私が二年だってわかったんだろう。学年集会とかで見掛けて覚えててくれてたのかな、と思うと胸が躍った。 保健室に着いたが先生が居なかった。 「無駄足だったね」 申し訳ない気持ちをたっぷり込めて私は言った。 「いや、そこ座れ」 「え?」 「俺がやってやる」 豪炎寺くんが棚を漁り始めた。どうやら本当に私を治療してくれるらしい。あ、そういえば豪炎寺くんのお父さんはお医者さんだったっけ。私は納得して椅子に座った。豪炎寺くんが消毒液を含ませた綿をピンセットで傷口に運ぶ。 「痛くないか?」 「全然、上手だね」 「まあな」 豪炎寺くんの治療は本当に丁寧で惚れ惚れするほど手際良かった。バンドエイドも貼ってもらうと不思議と痛みは全く残ってはいなかった。 「本当にありがとう!」 豪炎寺くんに改めてお礼を言った。豪炎寺くんにとってはただの1日の出来事の中なんだろうけど、私は一生の内のいい思い出になった。 「じゃあ、練習頑張ってね!」 保健室から出る際豪炎寺くんにそう言って帰ろうとしたら突然手首を捕まれた。 「えっ」 な、何事だ、豪炎寺くんが私の手首に掴んでいる。どうしたんだろうか。 「すまん、言うのが遅くなった、俺、豪炎寺修也っていうんだが…、」 知ってるよ、と言うべきか否か迷っていると豪炎寺くんが言葉を継いだ。 「お前、名字名前だろ」 「えっ!」 豪炎寺くんの口からまさか私の名前が出てくるとは夢にも思わず私は驚愕した。豪炎寺くんは私の顔を見て言った。 「驚かないで聞いてくれ」 豪炎寺くんの真剣な眼差しに圧倒されて私は生唾を飲み込んだ。 「俺、ずっとお前の事好きだったんだ」 一瞬言葉の意味がわからなくなるほど驚いて理解するのにタイムラグが生じた。 「すまん、話した事も無い奴にこんな事言われても困るよな」 豪炎寺くんの手が私の腕から離された。 「そ、そんな事ないよ!」 今度は私が豪炎寺くんの腕を掴む。私の腕とは違って男らしい逞しい腕だった。 「言うのが遅くなったけど、私も豪炎寺くんの事知ってた」 私はそこで一回息を吸って私の想いを全て込めて言った。 「私も豪炎寺くんの事好き!」 「ほ、本当か…!」 「うん!」 そう言うと豪炎寺くんが苦しいくらいの強さで私を抱き締めた。私も豪炎寺くんに手を回す。 占いも捨てたもんじゃない、そう思った。 (20100921) |