ごめんね、
よろしく




とぼとぼと足を進める。部室を出ていった切り戻って来ない風丸くんを探すために。隣には肩を落として歩いている半田くん。あ、溜め息吐いてる。なんなら私も吐きたいわ。


「名字の所為だからな」


まだ言うか。風丸くんの捜索を始めてから何かとこの台詞を多用する。多分もう5回目くらい。


「半田くんが茶化さなかったらあんなに風丸くんだって怒らなかったよ」
「だって、風丸が女の子とか、うけたからさぁ」


また半田くんが笑う。何でこいつはこんなに蒸し返すのが好きなんだ。


「半田くんの馬鹿」
「ばっ……!?」
「半田の阿呆」
「呼び捨て!?」
「あんたなんか半田で十分だよ」
「ひどっ!」


半田が名字がそんな子だとは思わなかったとか、ぶつぶつ言っていたので私は半田の背中をべしっと叩いた。それなりに痛がっていた。


「風丸くんどこに行ったんだろう」
「あ、あそこ」


背中を擦りながら半田が指差した先には大きな樹木の下にしゃがみ込む風丸くんの姿があった。誰の目にも明らかなくらいの落ち込みように私は胸が痛んだ。


「うわ、めっちゃへこんでんじゃん」
「やっぱり、元はと言えば私が間違えちゃったのが悪いよね」
「な、なんだよ、いきなり」
「でも、なんて謝ればいいんだろう」


私が足を止めて俯くと、半田がいきなり私の手を引っ張りずんずん風丸くんの方に歩いて行った。


「わっ、ちょ、半田!」


待って!まだ何て言ったらいいかわかんないのに!そんな私の思いを余所に半田は風丸くんに声を掛けた。


「風丸!」
「……なんだよ」


半田が私に目で合図を送る。多分謝れって事だろう。しかし未だに私は口をつぐんでいたままだった。半田が痺れを切らしたのか、私の頭を掴んで頭を下げさせた。私はそれで吹っ切れる事が出来たような気がして大きな声で言った。


「ごめんなさい!」


暫くの沈黙。半田の手が離され恐る恐る頭を上げると悲しげな表情の風丸くんと目が合った。やっぱり許してくれないのかな、と思ったら風丸くんが小さくだけれど笑ってくれた。私はそれにびっくりして目を見開いた。


「気にすんな、俺もいきなり怒ってどっか行ったりして悪かった」


私は風丸くんの言葉に感激したと同時にほっとしてなんだか熱いものが込み上げてきた。


「あ、ありが、とっ」
「わ、な、泣くなよ!」


風丸くんが立ち上がってうろたえる。


「あー、風丸が名字泣かしたー」


半田がまた茶化した。優しい風丸くんの爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。というか半田謝ってないよね?と思っていたら風丸くんが半田を睨み重々しく口を開いた。


「半田……、俺はな、どちらかと言うと、否、言わなくてもお前にむかついてる」
「え?ちょ、何その顔怖いよ」
「覚悟しろ!」
「ギャアアアア!」


それから半田と風丸くんの追いかけっこが始まった。半田がすぐに風丸くんに捕まった。足が速いなぁ。そして何発か殴られていたが(グーじゃないから多分本気ではない。流石風丸くん。)それくらいされて当たり前だと思う。


「いい加減反省しろよ?」
「はい……すいませんでした……」


涙をブラウスの袖拭った後、私は二人の下に駆け寄った。


「風丸くん!」
「なんだ?名前」


半田(気絶してるみたい)の胸ぐらを掴みながら振り向いた。まだ目が怖かったから私は一瞬尻込みしたが思った事を口に出した。


「女の子なんて言って本当にごめんね。今はすごくかっこいい男の子に見えるよ!あ、豪炎寺くんの次にね」
「はは、そうか!ありがとな」


風丸くんの笑顔を見て私も自然と笑顔になった。


「名字、悪いが半田を一緒に運んでくれないか?」
「うん!いいよ!」


風丸くんが半田の腕を肩に掛けた後、私ももう片方の腕を同じように肩に掛けた。ここから部室までは結構遠いから私達は半田に悪態を付いた。


「半田の馬鹿野郎」
「な、どこまで迷惑かければ気が済むんだ、こいつは」


私と風丸くんは言い返せない事を良い事に半田の悪口を言いまくった。(間抜け面とか、無個性とか、中途半端とか)ちょっとそれは悪い気がしたからそれくらいで止めた。風丸くんもそう思ったのか、話題を変えた。


「さっき豪炎寺の次とか言ってたけど、もしかして名字、豪炎寺の事好きなのか?」
「恥ずかしながら……」
「まじか」


私は初めて豪炎寺くんが好きだという事を人に話したという実感が湧いてきてだんだん恥ずかしくなってきて赤くなっているであろう顔を隠すように俯いた。


「応援してやるよ」


横からそんな風丸くんの声が降ってきたので私は顔を上げた。


「え、本当!?」
「ああ」
「ありがとう!風丸くん!」


そして風丸くんが優しく微笑んだ。本当に嬉しい。私も風丸くんに笑いかけた。



私に、とても良い友人が出来ました!







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