授業が終わった後、私は円堂くんにさっきの彼の事について訊ねた。 「ねぇねぇ、円堂くん」 「ん?なんだ?」 右斜め後ろにちらりと視線を向けると、あの彼は窓の外を見ていたので私はさりげなくそちらに指を差して言った。 「あの人ってなんていうの?」 「豪炎寺修也っていって、豪炎寺はめちゃくちゃサッカーが上手いんだ!」 「へー、豪炎寺くんていうのか」 名前を知る事が出来て、私は嬉しくなって少し笑った。すると円堂くんの席と私の席の間に誰かが来た。 「何か用でもあるのか」 目線を上げると正に噂をすればという状況で、豪炎寺くんが私に問い掛けてきていた。私は焦って椅子から勢い良く飛び上がったように立った。 「いやっ、あの、えっと、なんというか、挨拶がしたくて……」 苦し紛れに出任せを言った後円堂くんが大きな声で言った。 「なんだ!そういう事か!」 そして円堂くんは私の手と豪炎寺くんの手を取って無理矢理握手をさせた。まるで喧嘩をした幼い兄妹をその母親が仲直りさせるように。その恥ずかしさと、私の手が豪炎寺くんに握られているという状況に私は全身に力が入り、顔に熱が集まっていく感じがした。後数秒で手から汗が噴出されそうというところで豪炎寺くんとの握手は終わった。 「よろしくな」 「よ、よろしくね!」 なんだか気恥ずかしくて私は豪炎寺くんの顔を見られなかった。そんな時チャイムが鳴り豪炎寺くんは席に戻って行った。その背中を見つめながら円堂くんに感謝しなきゃいけないと思った。 放課後、円堂くんに先に部室に行ってくれと言われた。てっきり案内してもらうつもりだったので私はまた迷ってしまうんじゃないかと心配になった。しかし、円堂くんは用事があるらしかったのでしょうがない。多分委員会か何かだろう。私は鞄を肩に掛け円堂くんに描いてもらった地図を持って一人部室に向かった。 サッカー部、そう書かれた立て札を掛けている小さな物置のような建物が地図の赤丸の位置と一致した。ここが部室か、随分小さいと思った。実を言うと私は正直サッカーなんて物に興味は一切無い。ただの玉蹴りだとしか思えないし野球の方が面白いとも思っている。なんですぐに断らなかったのか、後悔が深まるばかりだった。 「サッカーなんてただの玉遊びじゃん」 「お前、サッカー嫌いなのか」 独り言に返事が返ってきて私はびっくりして声がした後ろに振り向く。するとそこにはユニフォーム姿の豪炎寺くんが居て、豪炎寺くんは凛々しい眉をひそめていた。そういえば円堂くんがサッカー上手とか言ってたっけ。豪炎寺くんもサッカー部だったのかと私は思った。 「嫌いとかじゃなくて……」 「来い」 そう言って豪炎寺くんはいきなり私の腕を強引に引っ張った。擦れ違う女の子に白い目で見られているのはなんでだろう。とにもかくにもこの状況は非常にまずい。なにより豪炎寺くんに嫌われるような事を私は言ってしまった。もう夢見たような親しい仲にはなれないんだろうと思い私は悲しくなった。豪炎寺くんに連れていかれたのはグラウンドでそこではサッカー部員と思われる人達が数人練習していた。 「あ!豪炎寺さん!」 その中の一人、緑のおかっぱの大きな体をした男の子が言った。豪炎寺くんの事をさん付けで呼んでいるから多分一年生なのだろう。その割りには本当に大きいなあ。 「皆!集まってくれ!」 豪炎寺くんは私の腕を掴んだまま言った。 「今から試合をする!」 「どうしたんだ、豪炎寺、いきなり試合って」 水色の髪をポニーテールにした子が言った。前髪で片目が見えない。口調がボーイッシュだけど可愛い。なんだか豪炎寺くんとの距離が近く感じて私はこの子に嫉妬してしまった。 「豪炎寺、そいつは?」 ピンクの坊主頭の人が言った。背が高めで強面だったので私は尻込みした。 「マネージャー志望だ」 「いや、」 私は勇気を振り絞って言った。 「なんだ、円堂から新しいマネージャーが来ると言われたが、円堂の勘違いか」 茶髪のドレッドヘアーを高い位置でまとめてゴーグルをかけた人が私を見て言った。 「私にマネージャーなんて出来ないよ」 「だから今から試合をする」 豪炎寺くんの考えている事がわからなかった。周りの人達も多分そうだと思う。 「こいつにサッカーの面白さを教えてやるんだ」 「えっ」 私はまだ疑問に思っていたが周りの人達は納得したらしく各々のポジションについていった。 「名字はそこに座ってろ」 豪炎寺くんに言われた通りベンチに座った。私はさっき豪炎寺くんが言っていた言葉について考えていた。 |