よくあるはなし



私は肩をすぼめて後ろの扉からこっそり教室に入った。
豪炎寺くんは自分の席から外を眺めていた。
これが私とか半田だったら効果音は"ボー"だけど、豪炎寺くんのは"キリッ"て感じ。
円堂くんはさっき言った事をもう忘れているようで秋ちゃんと何か話をしている。よかったよかった。


「秋ちゃん、おはよ」
「名前ちゃん!!」


私の顔を見た瞬間、秋ちゃんは血相を変えて叫んだ。その直後、「ちょっと聞きたい事があって!」と秋ちゃんは言って私を教室の外へ連れ出した。なんだ、なんだ、いきなり!
これは、もしかすると呼び出し……?
その考えに至り空き教室の前の静かな廊下で一対一で対峙すると、なんだか昔の嫌な事が思い浮かんできた。
いやいや、秋ちゃんがそんな事するはずないさ、絶対に!
そう信じたい。
だって、秋ちゃんとはまだ短い間しか過ごしていないけれど、すごく優しいもん!

私は秋ちゃんを見た。
すると、雰囲気がいつもと全く違っていた。
いつもハキハキしていてしっかり者の印象だったのに、今は何故だかもじもじしていてなかなか話を切り出そうとしてくれない。
どうしたんだろう。
でも、呼び出し的なものではないと確信出来たので私はすごくホッとした。
よかった!ほらね、やっぱり秋ちゃんはいい子だ!
そんな事絶対しないしない!
ちょっとでも疑ってしまった私は罪悪感を感じ心の中で「秋ちゃんごめんね」と言ってから、現実世界でも口を開いた。


「秋ちゃん話ってなに?」
「あ、あのね、……円堂くんの事なんだけど」
「円堂くん?円堂くんがどうかしたの?」


それからまた秋ちゃんは口をつぐんだ。
なんかすごく言いにくい事みたいだ。
しかも顔が赤い。
私はううむ、と顎に手をあてて考えてみた。
すると私の頭がピーン!と音を立ててひらめいた。


「わかった!」
「えっ!!」
「円堂くんのズボンのチャックが開いてるんでしょ!?」


自信満々に私は言った。
すると秋ちゃんはいっそう顔を赤らめて俯いた。
そんな秋ちゃんが可愛くて私は笑った。
それから私の推理力も伊達じゃないな、なんて思っていると秋ちゃんが大声で言った。


「そんなんじゃないよ!!」


私はその声に吹き飛ばされるかと思ったほど気圧された。
どうどう、と秋ちゃんを落ち着かせると秋ちゃんはコホン、とひとつ咳払いをした。


「もう、名前ちゃんたら!緊張感なくなっちゃったよ」
「ごめんごめん」


秋ちゃんはクスッと笑った。
そして私の目を見て口を開いた。
いよいよ本題なんだな、と私はなんとなく感じ取った。


「あの……、名前ちゃんは円堂くんとどういう関係なの?」
「へ?」


予想だにしていなかった言葉に私は素っ頓狂な声を上げた。
それから少し間を開けて私は答えた。


「別に友達だけど、あとサッカー部のキャプテン?」

「円堂くんは素直でいい人だよねー」と付け加えると、秋ちゃんはどこか安心したような笑顔を浮かべて「よかった」と言った。
私は疑問に思った。
なにが"よかった"んだ?
私がその疑問をぶつけると、秋ちゃんの安堵の表情が一気に変わってまた真っ赤になってあたふたし始めた。


「ねぇ、なんで?」
「いや、あの、それは……」
「………、ふーん」
「えっ」


私は考えた。
これまでの秋ちゃんの質問と態度を結びつけて。
するとひとつの答えが浮上してきたのだ!
今度こそ私の推理は当たっているに違いない!
私はにやついた顔で秋ちゃんを一瞥した。
予想は確信へと変貌を遂げる!


「秋ちゃんは円堂くんのことが好きなんだ!」
「わー!わー!ちょ、ちょっと名前ちゃん!そんな大きな声で言わないのー!」


どうやら本当に当たっていたみたいだ!
と、私は感激しているとまず感激以前に思う事を忘れていた。


「ええー!秋ちゃんって円堂くんが好きだったのー!?」
「だから声が大きい!!」


秋ちゃんが私の口を塞いだ。


「ぜ、絶対秘密だからね!」
「うぐぐ」






教室に向かう途中の廊下にて、私はふと疑問がまたひとつ浮かび上がった。
それをまた秋ちゃんにぶつけた。


「ねぇ、ところでなんで私にそんなこと聞いたの?」
「えっ」
「だってさ、私特別円堂くんと仲良いわけじゃないし」
「それは……、なんだか円堂くんと名前ちゃんが前から知り合ってた雰囲気だったから……」
「へっ?」


本日二度目となる奇声。
私は転校してきたばっかりだよ?
円堂くんと知り合いなわけないよ。
それを秋ちゃんに言うと、秋ちゃんは恥ずかしそうに俯いてぽつりぽつりと答え始めた。


「でも、紅白戦の時、名前ちゃんが円堂くんのこと、キャプテンっぽいねって、初めて会った時思ったって言ってたから、てっきり」


「円堂くんと前から知り合いなのかと思ったの」そこまで秋ちゃんが言い終えると、私はなぜか込み上げてくるものがあって、大笑い。


「な、なんで笑うの!」
「あははは、だって、なんでそんなふうに考えちゃうのかなって!初めて登校した時、私道に迷ってそれで円堂くんに会って案内してもらっただけだよ」
「そ、そうだったの…」
「秋ちゃんは乙女だな〜!」


私は秋ちゃんの頭を優しくポンポン叩いた。
秋ちゃんの目には豪炎寺くんのようにかっこよく映っているだろうか!(多分映ってない)
ああ、今日豪炎寺くんにこうされた時めっちゃときめいたなぁ……。


「ていうか、私他に好きな人いるし!」
「えっ」
「あ」




その後、私は秋ちゃんから尋問にあった。
「私も言ったんだから名前ちゃんも言いなさい!」
「……ごーえんじ、くん……」
「へぇ〜」

笑えるくらい形勢逆転って感じだった。
どうして私の口はこんなに滑りやすいんだろう。
つるつるだよ、誰か滑り止めをください。



でも、また友情が深まったし、

「私応援するよ、名前ちゃんのこと!」
「私も!秋ちゃん応援する!」

なにより、恋の戦友が出来たのでよかった、よかった!

私たちは二人ではにかんだ。



頑張ろうね、お互いに!







prev top next






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -