平行線をたどる日々



御幸君を好きだと自覚したものの。
私は何も出来ずにいた。

元々私は積極的なタイプじゃないし、恋愛経験だって決して豊富な方じゃない。
どう行動に移せば良いのだろう。

今だってそう。
家庭科の実習後の昼休みの教室は賑わっていて、女子は彼氏や好きな人に渡そうとしているらしい。しかもカップケーキなのだから、お手軽さは抜群だ。
当然、人気の御幸君は女子に次々と呼び出されている。

自分の席で、そっとため息をつく。
もやもやしたこの気持ちの名前は、自分でも分かっていた。

「よ、みょうじ」
「……あ、」

見上げれば、倉持君。御幸君と話すようになって、少し話すようになった。
彼は私の隣、つまり御幸君の席に座った。

「なんか辛気くせー面してんな! ヒャハ」
「……すいません」

ため息ついてるところも見られたんだろうか。お恥ずかしい。
自己嫌悪するが、倉持君は大して気にしていないらしい。

「みょうじは誰かに渡したのか?」
「何を?」
「カップケーキ」

首を振ると、彼はふーん、と呟いた。
何だか意味ありげに聞こえて、不思議に思ったけどまぁいいか。

「じゃあ、好きなやついねーんだ?」

え、なに、倉持君でさえ恋バナですか。
意外。もしかして流行ってるとか?
恋バナに流行りとかあるのかな。私が遅れてる?
難しい。

「おーい、シカトか?」
「あっ、ごめん、何だっけ?」
「……お前、何か抜けてるよな」
「え」

呆れたような視線を向けられ、友人にもそんなことを言われた気がすると思い出す。

「好きなやついるのか、って訊いたんだよ」
「…………えーと」

そうだった。
この場合、何て答えるのが正解なんだろ。
頭を悩ませていると、ここ最近ですっかり聞き慣れてしまった声が聞こえた。

「おい、倉持。そこ俺の席」

思った通り御幸君がいて、倉持君は笑いながら椅子から立ち上がった。
何だか御幸君は少し不機嫌に見えたけど、気のせいかな。

たくさん告白されてきたんだろうと考えると、チクリと胸が痛んだ。
不思議だったのは、カップケーキ貰ったはずなのに一つも持っていないこと。訊いてみたかったけど、やめた。関係ないことだろうし……。

「みょうじは渡したの?」
「えっ」

カップケーキのことだよね。
さっきと同じように首を振ると、御幸君はほ、と息をついた。それを不思議に思い首を傾ける。
すると、御幸君は困ったように頭をかいて、カップケーキを取り出した。

「貰ってくんね?」
「え、でも……」
「甘いの苦手でさ。これでも料理は出来るから大丈夫だと思うけど」

御幸君料理できるんだ……。すごい。
……じゃなくて。それなら貰ったほうが良いのかな。

「えっ……と、じゃあ貰うね? ありがとう」
「おー、こちらこそ?」

笑って差し出されたカップケーキを、両手で受け取る。
これ私のケーキもお返ししたほうが良いんじゃ……。でも、甘いの苦手って言ってたからなぁ。
今日の実習、チョコカップケーキだったし、苦手な人は苦手なんだろう。
うーん……。

「あんま気にしなくていいぜ?」
「っえ、」
「お返しした方が良いかな、とか考えてんだろ」

お見通しー、と御幸君が笑う。
ほら、やっぱり御幸君は気が利くひと。

こっそり手を握り締める。
距離は縮まっても、平行線は平行線のままなのだ。




平行線をたどる日々



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