シャッフル! | ナノ




「………良いのかい?彼女をこんなにあっさり解放してさ」
「…確かに彼女の異常は面白い。いわば彼女はみんなの思いの集合体のような存在だったからね。こうありたい、こうしたいこうでなければ。そっくりそのまま彼女の行動理念だ。
皮肉だろ?彼女を形作るのは彼女自身の異常なのに、異常は彼女を唯一から遠ざけ、自己と言うものを奪っていく……まさに悪平等だ」
「…………」
「あの手この手で口説いたのにオチてくれないんだぜ、あの子。一京のスキルを持つ、この僕がだよ。一介の異常風情に負けちまったよ」

くすくす、と妖艶に笑う安心院はその割に新しいおもちゃを見つけた子供の無邪気な残酷さを思わせた。学園の創始者である安心院なじみは、一京のスキルを持つ平等なだけの人外はきっと現在に至るまでの生徒情報全てを網羅しているのだろう。
そして黒神真黒は解析者である。例えば、その大きくもとても不安定だった晴日の異常の発現にこの人外が関与していたことは想定済みだった。かつての威光と現在も持つ権力を合わせれば春日晴日のプライバシーなど到底無視されたレベルの詳細な年表を揃えることだって不可能ではないのだ。晴日の異常が発現したと思われる時期の出来事の不自然さと歪さを見逃さなかった彼は、その直接的な原因の裏に何者かが手引きした痕跡を発見したのだ。きっとそれは常人なら、いや、真黒であっても事情を知らなければ見落としていたであろうが…とにもかくにも、晴日はとんでもない存在に目をつけられていたのである。しかし幸運なことに周りの環境に恵まれていた彼女は、その事件以来自身の異常を暴発させていなかったようである。

受容し、共有し、拒絶する、人を壊すそのスキルを。


「君も自分だと、そう言ったのかな彼女は」
「いいや君は僕だといったら<拒否>されちゃった。まあ、晴日ちゃんも所詮は人間だから、そう思っていたよ」
「違う、と?」
「ははは。違うにしろなんにしろ、とるに足らないね。どうでもいい。僕にとってみればこの世は全て平等にくだらねーカスなんだ」
既に安心院は半纏を連れて廊下を歩きだしていた。どこへ行くのかなんて野暮なことは聞かなかった。一京のスキルを持つ彼女はいようと思えばどこへでもいられるのだから。


「ほんのちょっと、彼女は平等<ぼく>より公平<かれ>に近かった。たったそれだけだぜ」


彼と彼女と人外の選択


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title by カカリア様

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