シャッフル! | ナノ






春日晴日は異常<アブノーマル>である。異常性は受容。これは状況だろうが人格だろうが何でも受け容れてしまうというだけの、ただそれだけの異常だった。どれくらいかというと、異常<アブノーマル>でありながら特別<スペシャル>の中にいられるくらいには人畜無害なのである。
この異常は、普通の中では発揮されない。常軌を逸した状況に陥った時に、真価を見せる。例えば元クラスメートに入院を余儀なくされる程度の襲撃を受けた時や、人外に仲間に勧誘された時などの日常生活においてまずありえない事態に、晴日はいつだってあり得ないくらいに冷静だった。そして、なすがままだった。
では人格を受け容れるとどうなるか。人は誰しも誰かに存在を必要とされたい生き物である。人との関わりが希薄な異常なら、尚更。そこへ晴日が現れる。何でも受け容れてしまう彼女は、他人の人格でさえも受け容れてしまう。
受け容れるとどうなるか。受け容れた他人を、晴日は自分の中に飼うのだ。


・・・・・ ・・・・
受け容れて、共有する。
受容の異常が生んだ共有のスキル、水鏡<マザーズブルー>。
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黒髪真黒が名付けた、彼女のスキルである。これを彼女は検体名だと思っていて、それもまた正しい。
そもそもこの異常は「誰かに必要とされたい。嫌われたくない」という異常にとって普遍的な願いの末に状況的要因によって生まれた、いうなれば非常に過負荷的なスキルである。そこをしっかりと見抜いた球磨川禊は、やはり流石というべきなのだろう。
そう、そんな願いをもってして生まれた彼女の異常は、この誘いを断るはずがなかった。断る理由がないのであれば、入らない理由にならない。だから安心院なじみは、にい、と口角をつり上げたのである。

そんな異常を持つ晴日から出た言葉は、とんだ爆弾だった。

「ああそっか、わたし、ずっと長者原くんのこと好きだったんだ」

安心院の表情が、固まった。
口角を上げたまま、目を細めたまま、動画再生ボタンを押したかのように、動きを止めた。春日晴日は気づかない。その事実に戸惑うことなくなんでもないような顔で納得している。自己完結している。まるでその事実は最初から自分の一部であったかのように受け止めている。

「だからわたし、あなたにはついていけません。せっかく誘ってもらったのにごめんなさい。」
「………」
「きっと私はどうだって良いんです。アナタについていこうが、貴方を否定しようが、ワタシはどうだって良いんです。本当に本当に心の底からそう思ってるんです。
でも、そしたら、長者原くんが、悲しむじゃないですか。どこにもいかないって、約束しましたから」


歳の割に随分と幼い表情を浮かべながら、淡々と晴日は言い切った。安心院の返事を待たずにすっきりとした顔で「じゃあ。これで失礼します」とおざなりに礼をして廊下を駆けていく。その後姿を見つめる安心院の後ろに、もう、二つの影。一つは言わずもがなそこにいるだけの人外、不知火半纏である。もう一つは、たった今柱の陰から現れた、春日晴日の救世主ともいえる黒神真黒だ。


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