シャッフル! | ナノ




「よお春日」
「あ、雲仙くん」

その数日後、一年十組の教室に現れた小さい男の子の姿。
クラスじゅうが騒然とし、しかし静かに、元クラスメートと対話しているクラスメートを固唾を飲んで見守った。

「呼子いるかー?」
「あ、呼子さんね。分かった。呼んでくるよ!」

呼子さーん、と声を発しようとして席を向いたら、ばっちり目があってしまった。
彼女はにこり、と柔和な微笑みを浮かべて「はい」と雲仙へ返事を返す。

「春日、おまえも来い」
「分かった。いいよ」
「………即答かよ」

訳ぐらい聞けよな、と雲仙はぼやく。僅か10歳にしてひねくれてしまっている彼は、晴日のこういう所が理解できない。が、すぐににやりといつもの鋭い笑みに戻った。
理解などしなくていいし、自分も『そんなふう』になりたいと、ほんの少しだけ心のどこかで思っているとも知らないで。

数日前の戦いは、事実上雲仙の勝利で幕を閉じたと言っていいだろう。
なにしろ彼はほぼ無傷であったし、対する晴日はどこもかしこもボロボロだったし、
雲仙が戦意を喪失したその瞬間に晴日も戦うことを諦めて、放棄したのだから。


面白い。


戦ってみて、雲仙は素直にそう思った。
それこそが彼女の異常に取り込まれた原因などとは知りもしないで。

そして委員会連合としての提携を強める約束をし、騒ぎは集結した。
あれだけ攻撃をくらいながら何の禍根も残さずに雲仙と握手を交わした晴日に、改めて彼は舌を巻くことになったのだが、同時に救いようのない馬鹿としても認定してやった。


「次世代(イチネン)の委員で作戦会議としけこもうや」
「じゃあ、友達も連れてって良い?」
「もちろん。噂はかねがね聞いてるぜ、魔女さんよ」

にっこりと笑う少年が晴日を打ちのめした事を知っている廻栖野は当人の後ろで警戒を滲ませながらも頷いた。
この、至極まっとうに友人を心配しているからこその行動は、そのまま彼女の社会性の高さを示している。

「ああ、そうだ春日。今年の一年の委員の同類は、選管にものぐさと頭堅いのだ。近々会いに来いよ」
「分かった。いくよ」
「……お前ちょっと素直すぎじゃねえか?」

本心から出た言葉だ。それを聞いて呼子は雲仙が既に晴日を仲間だと認めている事実に気がついた。人間が嫌いだとのたまう彼ではあるが、仲間意識は強く、人と関わることは嫌いではない。
ただ、関わるに値しない人間が圧倒的多数を占めていると言う―――それだけなのだ。
時に徒党を組み、敵として反目するに値する人間であると、晴日は雲仙に認められたのである。
しかし、当の本人は至ってのんきで、一般人でも普通に勝てそうな緊張感の無さだ。
もしかしたら、目的の為なら自身さえ厭わない、そんな姿勢が彼の気に入る要因だったのかもしれない。

「そんなことないし、雲仙くんが天の邪鬼なだけ」
「あ?…まあいいか。

ところでな、お前に片づけてほしいモンがあるんだけどよ―――」

一瞬むっ、とした年相応の顔を見せてから雲仙はいつも通りに笑った。

この日を境に、『なんでも片づけてしまう美化委員』の噂が流れ始めることになるのだが、

それは小さな人間嫌いな彼なりの、広量な彼女を守る術だというのを知るものは僅かである。


その戯れ言の名は愛

(俺以外に潰されちゃ面白くねえからな)


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雲仙くんとの出会い話でした。
あと今回かなりねつ造が入ってます。長者原くんもフェードアウト。申し訳ないです。

雲仙くんは人間が嫌いだと言っていますが、彼も他人に自分と同じレベルを求める余りに嫌いになってしまったのではないかな、という勝手な妄想です。
代わりに規則という分かり易い物差しを使うことで心の均衡を保っているというか……すみません完璧な妄想です。

しかし異常はだれしも人との関わりを求めているので、ありのままの自分を受け容れてくれる夢主は、人に好かれやすいという特性があるよ、という補足をここで。
しかし恋愛感情なんかとは別物。その辺はスキル名から推察をお願いします

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