シャッフル! | ナノ




「んー…まあ、こうなるか」

放課後、人気のない校舎の隅へと歩いていた晴日はそう呟いてくるりと後ろを振り返った。少し、スカートと割烹着の裾が揺れる。

「あ?ヨユーだなあ。流石十三組!」
「てめーらみたいのが居るから、俺ら一般生徒の平和が乱れるんスよ」
「平和乱してる奴が風紀だなんだ、うるせーんだよ」

すると柱の陰からどこかしらに治療中であることを象徴する、包帯やら湿布やら絆創膏やらを貼り付けた柄の悪そうな生徒が三人ほど這いだしてきて、周りを取り囲む。

「…………」

最初こそ話題の中心となってしまったが、それ以降は目立たずにいたつもりだったのに。十三組にやられたのだからやり返す、とまあ、そういう事だろう。本人にやり返すよりは十組に移った晴日で憂さ晴らしする方が安全だと思っているのだ。
そしてそれは半分正解で―――しかし最悪の選択である。


「気持ち悪いんだよお前ら!!」
ぼうっとしたそんな態度が気にくわなかったのだろう。
彼らは怒号を上げながら襲いかかってきた。

一方晴日はとても静かで。
ぽとり、と。廊下に落ちたたばこの灰を見つめていた。

「…私が気にくわないのはしょうがないけれど、汚すならアナタ達を片づけてしまわないといけないな!」

どこまでも無垢に、純粋に晴日はただ笑った。
感情も、思想も、理性もなしに、ただただ、微笑みを浮かべ、
側にあった掃除用具のロッカーから古いモップを取り出した。

瞬間。






「俺の目の前で風紀乱そうとしてんじゃねえよ、ボケ」

閃光。

四方八方から乱反射する音と存在に気がつく頃には、彼らは全員地に伏していた。

「が………ぁ゛ッ」

呻き声が廊下に木霊する。
もうもうと巻き上がった煙が晴れていく。
今までその姿を把握できなかったのは煙に紛れるその白い制服のせいか、はたまたその身体のサイズのせいか。
とにかく、その中からでてきたのはなんともこの場に不釣り合いな年の頃10歳程度の少年であった。
その数メートル後ろには同じ制服を着た数名の生徒が佇んでいる。
だが、先ほどの攻撃はこの少年が仕掛けたと見て間違いないだろう。
間一髪後ろに飛び退きロッカーを盾にしたことで被弾を避けた晴日の笑みは、揺らぐことはなかった。

「お前らも懲りねーなあ。正義の前に人は平等だっつったろうが。日本語わかんねーのかよ」

その、年端もいかぬあどけない顔に似つかない凶悪な笑みと貫禄、存在感。少年はすべてを持って一瞬のうちにこの場を支配下においた。
晴日はただじっと微動だにせず、真っ直ぐにその白い少年を見つめる。

少年は見るからに"本物"の重厚感のある手錠を男達の手首にかけていく。こちらを振り返りもしない。

「呼子!連れていけ」
「はい。委員長」

彼らを引き受けた呼子笛の袖からはジャラジャラと金属音をさせて鎖が這いだしてくる。あっという間に彼らを拘束した呼子は、他の生徒と共に彼らを連行していった。
それを満足げに見守る雲仙。
沈黙が流れたが、そのような気まずさを気にするような二人ではなかった。

「私は春日晴日。アナタが噂の風紀委員さんなのかな。助かったよ、ありがとう」
「…ん?あー、そうそう僕ちゃんが風紀委員長の雲仙冥利くんでーす」

やっと振り向いた少年――雲仙は、気だるそうに晴日を見上げた。

「つーか礼は要らねえよ。そんなもんされるような事してねえんだからな」

ぎぃ、と笑顔に戻った雲仙。晴日も笑顔で、端から見れば微笑ましく見えたかもしれない。
す、と長い袖に隠れた小さな腕が友好を示すようにひらひらと揺れた――――――なんて事はただのフリで、先ほどの閃光が再びあたりを包んだ。



「俺はお前も粛正するつもりだったんだからよぉ!!」


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