シャッフル! | ナノ




「雲仙様、失礼します」
「よー融通ィ」

ゆったりとした民族衣装風の制服に身を包んだ長者原はその軽い足取りとは不釣り合いな量と、それに見あった重さの書類を机におろした。
長者原は晴日が雲仙に膝枕しているこの状況…というよりは晴日がここにいることに少し驚いたようだったが特に何を言う出もなく頭を下げた。

「今回の生徒会選挙におけるルール改正案と、投票事項についての書類です。目をお通しください」
「ごくろーさん。噂じゃあの眠り姫が動くってんだから、相当な規模になりそうだな」
「はい。もしかしたりもしかしたらすると立ち上がるかもしれませんね、委員長が」
「…まじかよ」

雲仙は晴日の顔の下で珍しく本気で驚いていた。
かなり珍しいそれをしげしげと上から眺めていたのだが、
気づけば、にいっと笑った凶悪な笑顔とばっちり目があってしまい―――
晴日は長者原くん早く帰って!と叫びそうになった。絶対、ろくなことに、ならないっ!

「そうだ、春日。お前せっかく風紀委員会に来たんだからやってけよ。風紀委員会名物、裸エプロン!」
「……………………雲仙くん、の将来が心配だよ」

そんな名物があるのかないのか定かでないが…このおっぱい星人なら常日頃から女の子に裸エプロンさせてるかもしれない。いや、させているのだろう。雲仙くんに心酔している"雲仙冥利を愛でる会"会員なら、するんだろうきっと。

「今ならデザインは選ばせてやるぜ」
「ふうん。何気にバリエーション豊富なんだ。」

しかし晴日も異常の端くれである。加えて例外で特殊なのだ。
この状況さえ恥も外聞も捨てて受け容れられる。だからこそなし得た今までの偉業だ。
この辺りが長者原の言葉を借りるなら『危機管理能力が欠損している。』
そもそも嬉しいことも嫌なことも全部受け入れてきた晴日に"悩み"というものがある時点で明らかにおかしいのだ。
実際そいつが生まれたら、彼女は実に狭量でちっぽけで下らない、ただのニンゲンだったのだから。

「このイチゴのやつかわいいねー雲仙く…」

言われたとおりにエプロンを
吟味していたらいきなりその手を捕まれた。
…長者原に。

「雲仙様。あまり校内でそういうことをされない方がよろしいかと。
ああ、それから見て分かるように私めは現在多忙でして、お力借りてもよろしいでしょうか晴日様」

おそらく晴日は、え、としか言えてなかっただろう。それほどに唐突に捕まれたままの腕を引っ張られて、風紀委員会室から連れ出された。

その瞬間にしてやったりといったものすごく良い笑顔の雲仙が視界に入って、
晴日は無性に受け容れることもできずに赤面してしまった。

「もう風紀委員会にはおひとりで出向かないでください」
「わ、わかった」

元々は長者原くん、貴方が原因なんだけどね、と言える雰囲気ではなかった。いつになく彼から発せられる言葉に命令形のような片鱗が滲んでいたからかもしれない。

…私においては公平なのではなく、我慢強いということで今回は許してあげよう。

捕まれたままの腕の力強さがいつになく彼らしくなく感じて晴日はそう思った。


不可思議幸福論

(球磨川様のことは裸エプロン同盟の作戦だと、委員長の命令でしたので)
(我慢強い…?)


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くっつく前にくっついたあとを書くと言う暴挙。

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