シャッフル! | ナノ




2人とも間一髪避けたのだが、その人は目の前が見えなくなるくらいに大量の書類を持っていて、急に動いたために当然それはバランスを崩した。
避けられたことにほっとして、今度こそ間に合わず、書類が頭に降り注いだ。

「申し訳ございません。ご無事でいられますか」
「あ、こっちも考え事してたから。ごめんね」

そう言ってその人を正面から改めて見ると、どこか見覚えがあるような気がした。
ゆったりとした民族衣装風の制服に、うっすらと透けて見える校章の入った目隠し布。
剛毛なのか柔毛なのかわからない髪型。
そうだ。普通の制服で目隠しもしていなかった気がするが、あの時の…。

「十三組、の…」
「ああ。入学式の日に倒れられた…」
「あー…そう、それです。」

不思議な人だった。
目の前に対峙しているのに、まるっきりこの人が流れ込んでこない。
こんなに自分を律している人がいるなんて。

「不注意でご迷惑をおかけいたしました。改めましてわたくし、一年十三組、選挙管理委員会所属、長者原融通と申す者にございます」


馬鹿と先頭につくくらい丁寧な言葉遣いで彼はまくしたてた。
そして九十度なんて生易しい角度ではない仰々しいお辞儀。
それこそ『普通』の人なら物怖じしてしまうかもしれない。だって私は彼の親でも恩師でもなければ年上ですらない同級生の女生徒なんだから。


「あ、私は―――」


これは状況だろうが人格だろうが何でも受け容れてしまうという受容の異常を持つ、異常な私、春日晴日のただの普通な日常のお話である。


名前も知らない春が来る

(心地良いくらいにその人は
なにに対しても誰に対しても公平だった)


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title by カカリア様

真黒さんと王土さんはフラスコ計画の一環で一年生を観察しにきた、という設定です。
長者原くんの素顔が気になります。

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