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「では、場所を移しましょうか。図書室は飲食禁止にございますから」
「む。忘れてた…。そうだね、外は暑いから適当に教室にでも行こうか」
圧巻の量の本棚の並木を二人で歩く。やはり疲れているのか彼は元気がないように思えた。
「…春日様は、どうして、このようなことを?」
ふいにぽつりと横でつぶやかれたそれ。
「私がここにいるのはあくまで美化委員としての責務だよ。きっと、これから大々的に破損してゆくであろう校舎の処理のためにね!」
「…そうでございますか。そういうことでしたら、この夏休みはよろしくお願いしたく存じます」
平凡な毎日ほど苦痛なものはない。なにせ彼らはれっきとした逸脱者なのだから。平坦な毎日を望むというのならそれはどこまでも静的な世界だろうし、劇的な世界を望むというのならそれはさながらドラマのごとし。両極端なのだ。
それでも晴日は平凡で穏やかで、それでいいと思っている。
人間なのだから。
そう、元クラスメートと夏休みをともに過ごすような。
「本当に融通がきかないなあ長者原くんは。まあ、貴方のそんな所が私は―――」
そこまで言い掛けて晴日は言葉を止めた。
自分が、良いとか悪いとか関係なしに受け容れてきた自分が、長者原のそんな所を自分の感情でカテゴライズしていることに驚いたからだった。
「…春日様?」
「いや、嫌いじゃない、かな」
「そうでございますか。そう言っていただけて 嬉しい、です」
「………」
長者原も、自分に向けられる感情に感情で持って返したのはほとんど無意識で、それゆえに驚いた。
外からは蝉が命の限り雄叫びをあげている。
夏休みはまだ、始まったばかりである。
寄り添うための言い訳を
(そうだ長者原くん。私の家は近いからご飯食べてお風呂にでも入っていくと良いよ)
(…わたくしめには自己管理能力が欠損しているかもしれませんが、貴方には危機管理能力が欠けています!)
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そんなこんなで夏休みを一緒に過ごします