シャッフル! | ナノ




「!?」

触れるか触れないかの瀬戸際で突然団子がぶよぶよと動き出した。そして、散ったのだ。
まさにそうというか、蜘蛛の子である。

「きゃあああああっ!」

悲鳴。
いつも飄々と堂々としている彼女からは想像もつかない、いかにも女の子な悲鳴。
しかし長者原はそれよりも晴日のとった行動のほうが予想に反していた。

「ちょ、ちょ長者原くん…っ。取ってぇ…っ」
「!?」

本当に普段からは想像できない彼女だった。
うろたえ、慌て、あろう事か抱きついてきた。
取って、とは多分腕を這い上がってきた蜘蛛のことなのだろうが悲鳴をあげた際に振り払ったらしくどこにも見あたらない。

「ご、ご安心下さい。もう、いませんよ」
「ほ、ほ、本当に?だって、腕を…っぞわって…!」

ぎゅっと瞑った目尻は濡れているし肩は震えている。
驚くことも嫌がることもない"受容"の異常を持つ晴日が、ゴキブ…皇帝Gにも屈することのない晴日が、自分の胸で身を固くして耐えている様子など想像もしなかった。
変わったな、と長者原は素直にそう思った。
彼女も普通の女の子のようにこんな風にパニックに陥るのだと、そう思うと微笑ましかった。
同時に、こんな一面を知っているのはおそらく自分だけだという妙な確信と優越感が自身を満たした。

「もう、大丈夫ですから。」

そっと、細く華奢な肩を潰してしまわないように腕をまわす。

「皇帝の出現で益虫である蜘蛛も大量発生したみたいですね。今のはその卵でしょう」

思ったよりずっと近くから降ってきたその言葉に晴日は、そ…、と目を開けると
やはり眼前に長者原の顔があった。
目を開けた晴日の顔が仄かに朱に染まった気がした。

「あー…。その、ごめんね。いきなり。…どうしても蜘蛛はダメみたいで」

だが、次の瞬間にはいつもの春日晴日に戻っていて。
やはり先ほどの光景は夢か幻だったのではないかと長者原は思った。

「…いえ、春日様でも驚かれることがあるんですね」
「………貴方といると、受け入れるモノが少ないから、ワタシは私でいるしかなくなるの…っ」

ばつが悪そうに晴日はそう言って、はっ、と気がついたように長者原から離れた。
移った体温に顔の熱がさらに上がる気がして、晴日は顔を伏せた。
珍しく笑う彼の顔など見れるわけがない。

「貴女は貴女のままで、よろしいのですよ」
「……人に言われたことはなかったなあ」

かくして、悪の皇帝Gとの戦闘は幕を閉じた。
そしてかの元破壊臣も見逃した蜘蛛たちとの戦いがもうすぐ幕を開けることは、
晴日も、長者原も、
悲鳴を聞いて駆けつけたは良いが廊下の柱に隠れるしかなかっためだかも、しらないのである。

悪あがきのすゝめ

(先輩、結局原因はなんだったんですか?)
(よく聞いてくれたね人吉くん。君のお友達の食べこぼしだ)
(…よく、言って聞かせます)



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title by カカリア様

やたら長くなってしまいましたが、書きたいお話がかけて満足です。
みなさんも夏は皇帝の出現にご注意ください

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