シャッフル! | ナノ




二年十三組、公平の異常を有し、『分不相応』にも選挙管理委員会副委員長である、長者原融通はゆったりとした制服に身を包み、
その体躯に似合わぬ軽さを持って廊下を歩いていた。

登校義務のない彼ではあるが、細々とした委員会の仕事のために学校を訪れることもしばしばある。ごくごくたまにではあるが授業も受ける。

その日は前者で、時間を気にすることなく午後に現れた。
そして今委員会の教室へ向けて歩を進めているところだった。
先ほどから廊下の隅に見慣れない白くて丸い固まりが落ちているのに気づく。
美化委員会が見逃すとも思えないし、少々不思議に思いながらも彼女のなにかの策かもしれないと捨てるのを思いとどまった。

「あ、長者原くん!」
「春日さま…」

後ろから声をかけられて、振り向くとやはりそこには先ほど思い浮かべた彼女がいた。
その手にはビニール手袋がはめられ、さらにビニール袋を手にしている。その中には今見つけた小さな団子が数個入っていた。
そして廊下の隅に置いてあった同じそれをひょいと拾い上げて袋に入れる。

「団子…ですか?」
「ホウ酸団子だよ。この一週間悪の皇帝Gとやり合ってね。その名残」
「皇帝、とやらはいまいち理解しかねますが、要するにゴキブ…」
「みなまで言っちゃだめだよ長者原くん!うちの委員長の意向なの、Gだよ。皇帝G」
「はあ…皇帝Gですか。それは大変骨が折れたこととお察しします」
「うん。特に女子がことごとく戦線離脱しちゃって。好きな人はいないだろうけど」
「春日さまは平気なのでございますか?」
「ん?まあ、衛生的には大嫌いだけど生物としての脅威はないでしょ?そーいうものだし、皇帝は」

長者原はその言葉に晴日がまた良いも悪いも好きも嫌いも全てを受け容れて納得しているのだと思った。
だいぶマシになったようには思うのだが、やはり根本的な所では異常に支配されているのだと――そしてそれを自分が考えることをおかしく思った。

「そういえば、生徒会の前にも落ちていましたね。それ」
「え?生徒会長がいるから生徒会室付近には置いてないと思ったのに…。ありがとう長者原くん。回収しにいくよ」
「お供します」
「…いいの?」
「ええ。十三組(わたしたち)に時間の制限はありませんから」

それもそっか、じゃあお願いしようかな!と晴日は大層嬉しそうにほほえんだ。
2人は生徒会室のある廊下の隅に置いてある団子を探した。しかし、なかなか見当たらない。

「このあたりにあったと思うのですが…」
「そんなこともあるよ!気にしなくてい…」

あきらめ掛けたその時、晴日は隅にある白っぽい固まりを目にした。

「もしかして、これ?」

少し、自分の知っているホウ酸団子と違う気がするが長者原が目にしたというのはこれのことだろう。
まあ、手作りなのだから多少誤差があるのは当然か。と納得して、手袋ごしに手を伸ばした。
しかしこの判断は全く持ってこれっぽっちも彼女にとって正しくなかった。

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