シャッフル! | ナノ




「朗報だよ廻栖野ちゃん!」
「晴日ちゃん…。こっちはあんまり良くない報告よ」

美化委員会はいつになく張りつめた空気だった。
無論、皇帝Gの件である。

「皇帝の目撃情報が相次いでるわ!遭遇した美化委員もキン●ョールで応戦してるけど、あんまり効果がないみたいですぐ逃げられちゃう」
「うん。私も今し方相手取ったけど…。皇帝を仕留めるには物理的な方法を取るほかなかったよ…」

ゴメンね、はたき…と晴日は心の中で相棒に謝った。はたきの部分は着脱可であるが、それでももう、今のはたき部分はもう使う気になれなかった。

「被害の大きい食育委員会に状況を確認しにいってたんだ」

そう言ってすごくいやそうな顔をして取り出したのはビニール袋。
…の中の、例のホイホイだった。
その中にみっしりと詰め込まれた黒光りするそれは、たとえ屈強な男でも目をそらしたくなる気味悪さである。
隙間から羽や触覚や脚が至る所から尽きだしていて、その密度たるや朝の満員電車さながらである。
ねたねたと捕獲のための粘着質なそれを纏い尚も緩慢な動きで手足をばたつかせている。
しかも、でかい。もう一度言おう。でかいのだ。世間一般のそれより、はるかに。
ひっ、と悲鳴を上げる委員もいる。

「今はコ●バットとホイホイで応戦しているらしいけど、キリがないみたい」
「そんな…。あの二人は食材には細心の注意をはらっているはずなのに…。どこから発生したのかしら、一体」
「私たち美化委員会も清掃に手を抜いていたわけじゃないし、ね……」

今までいなかったのだから偶発的にどこかから持ち込まれたと思うのが自然である。しかし、果たしてこれだけ繁殖させる隙間はあっただろうか。
しかも相手は化学物質が効かない近年叫ばれている進化したモノたちだ。

「そこで食育委員長たちがこれを提供してくれました!」

続いて晴日が取り出したのがバットに並べられた小さな団子だった。
そう、ホウ酸団子である。

「文明の利器が通用しないなら、先人の知恵を借りよう、ってことらしいよ」
「確かに、化学物質相手に進化を遂げてきた皇帝には盲点かもしれないわね…。早速、各々設置にかかるわよ!」
「その際皇帝との遭遇は避けられない。くれぐれも気をつけてね。キ●チョールが効かないからって間違っても潰しちゃならないよ」

仕留める時は、中身が飛び出さず、しかし致命傷を与えるだけの絶妙な力加減でなくてはならないとか、うんたらかんたら。

どうやらこの作戦は当たったようで次の日から皇帝の目撃情報は確実に減っていった。
食堂にも徐々にではあるが利用者が戻りつつあるようだった。しかし、依然としていなくなりはしないのだ。
むしろ生き残りはより屈強でデカく、このままでは埒があかない。


「リミット(夏)まで時間が無いわ。今日にでも…」
「掃討する!」

うおおおお!と美化委員会ツートップに高められた志気のまま、美化委員は散っていった。
それぞれ手には古新聞や古雑誌、キン●ョールより専門的なゴ●ジェットなどを持ってだ。

その背後でもぞり、と音がしたのに気づく者はいなかったという。

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