シャッフル! | ナノ




「なあ不知火、なんかここんとこ食堂の利用者少なくねーか?…それになんかやたら、ピリピリしてるというか…」
「あひゃひゃ。人吉ったら気にしすぎじゃないのぉ?みんな梅雨だから教室から出るのが億劫なんだよきっと!」

口の周りを汚しながらそういって、尚も食べ続ける不知火半袖に、生徒会庶務、人吉善吉は自身の注文した定食を半ば感服しながら食べている。

「おまえがそう言うならそうかもな」
「そうに決まってんじゃーん。まあ私は食事の邪魔になる奴が少なくてラッキーかな」
「確かに、たまには静かなのもいいな」

「でも実際問題なんだ。食堂の利用人数は日に日に減るばっかりで」

不意に声がした。
堆く積み上げられた食器の横から覗く顔。
見れば不知火の隣に女子生徒がちょこんと座っていた。何故か制服の上から割烹着を着ていて、どこか人を食ったような笑いをたたえている。

「これはこれは!美化委員会の副委員長さんじゃありませんかー。すごいですねぇ悪の皇帝の侵略っぷり!あたしの統計では二日ですでに食堂の利用者は三分の一まで減ってますよー?」

しかし人を『喰う』ことに関しては、自分の友達の右にでる奴はいないと同時に善吉は思った。
…半分以上何を言ってるのか分からなかったが。

「いや、貴方たちのような根強いファンがいてくれる限りは全力で料理を提供する、と食育委員長たちは言ってるんだ。もちろんワタシたち美化委員会としても奴らに屈する気はないし?近々正面から清掃(せんとう)を仕掛けるつもりだよ」

にこりと笑う彼女はとても綺麗だった。
どこかミステリアスな雰囲気を纏い、口調や仕草すべてをアクセサリーにしているような、そんな印象。

「申し遅れたねー、人吉くん!二年十組美化副委員長の春日晴日だよ。よろしく」
「生徒会庶務の人吉善吉です」
「私は会議で知ってるけれど、アナタは覚えていないかな?」
「はい…すいません」
「謝ることじゃないよ。貴方たちの噂はよく耳にするけど、ワタシたち美化委員会なんて掃除くらいしかしていないと思われているだろうしね」

そう言ってまた笑う。どうやら二年女子に絶大なる人気をほこる阿久根とのいがみ合いが話題を呼んでいるらしい。嬉しくない。全く持って嬉しくないと善吉は心で叫んだ。

「あ、俺めだかちゃんに呼ばれてるからもういくな。じゃあな、不知火!先輩も、失礼します」

最後にもう一度見た晴日はやはり人を見透かしたような笑みを浮かべていた。
いや、ような、ではなく。
・・・
本当に見透かしているのだと善吉は知らない。

「今頃人吉くんは不思議に思ってるんだろうね。不知火さんもかな?」
「…どーして分かるんです?」
「分かるよ。だって、私はアナタで貴方はワタシなんだから」
「さっすが、異常にして特別に紛れる特例さんは違いますねー」

にこり、とどちらも笑みを浮かべているのに。なのに空気は塵一つとして和んでなどいなかった。

「私ももう行くよ。またね、不知火さん」

そう言って、晴日は去っていった。不知火はその背中が見えなくなるまで手を止めていたが、見えなくなったとたんにまた食物をむさぼり始めた。
そして、振り返りもせずに今さっき去っていった晴日のポーズのまま制止している――黒神めだかに語りかけたのだ。

「それで、お嬢様はなにをしに来たんですか?私としてはあなたに話す事なんてないんですけど」
「そういうな不知火。少々彼女が気になったから声をかけるのを待っていただけだ」

凛っ、とそこに佇むめだかの機嫌は余り良くなさそうだ。やはり二人は相容れないのだろう。

「風の噂で聞いた、十組に所属する十三組が彼女というわけか」
「ですねー」
「…」

ぽきゅぽきゅと効果音を立てながらラーメンを『呑んだ』不知火に流石のめだかも呆れ気味だ。
しかしそんな奇行が気にならないほどに落とされた爆弾は大きかった。

「因みに二年十三組長者原融通先輩の彼女らしいですよー?」
「…ほう、長者原二年生に恋人がいたとは」
「正確にはー。くっつきそうでくっつかない非っ常ーに鬱陶しいラブコメ繰り広げてる、周りの公認カップルみたいなもんらしいですけどねぇ」

公平な先輩を思い浮かべながらも、めだかは未だ信じられないでいた。あの長者原融通に、だ。彼女。さっきの。

釈然としないながらも不知火との会話をそこそこにして、めだか本来の目的であったすれ違った善吉を探しに駆け出すのだった。


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