夢喰 | ナノ
アマゾン川に集う

「あら…残念ねえ。何があったのかしら」

嵐のように過ぎ去っていった智香に対して、お妙。

「随分大変な職場なのね」
「うむ。やはり中間管理職というのが一番大変らしいな」

そんな風に言いながらもポテトチップを頬張る九兵衛と納豆を頬張る猿飛。

「あ、智香これ忘れて行ってるアル!」

そして、神楽が指差した――先ほどまで智香が座っていた位置には、一本の刀が置き去りにされていた。





屯所の前まで走ると、門の中から急に神山が飛び出してきた。
なるほど、行く気満々だったのに沖田くんに気絶させられ置き去りを食らったようで、かなり混乱している。

「神山!」
「宝生さんんんんん!!」
「ちょ、」
「沖田隊長が…っ沖田隊長があああ……っ」
「分かった!理解したくもないけど分かったから!離せぇ!」

薄暗いのが幸いというか、辺りに人気はない。
一番隊というだけあってがたいのいい成人男性に泣き疲れている私は一体世間一般の人にどう映るのか考えたくもない。

「だからね、沖田くんは自分が留守の一番隊を他でもない神山に任せようとして心を鬼にしてだねェ…」

その時の私は迂闊だったのだ。
人気がないからといってそこかしこに人間はいるのだ。
中に入って話を付ければ良かったのだ。
もしかしたら知り合いが後ろから私を追いかけてくるかもなんてこれっぽっちも予想していなかったのだ。


「あ、あなた…っ」
「へ」

そして、気づいたときにはもう遅かった。
薄紫の長い髪の毛も赤色のメガネも…後ろにたっていたのは紛れもない猿飛あやめその人だったのである。
その手には私の刀が握られていて、あー、届けようとしてくれたんだあ、良い人だなーとかさらさらとそんな言葉が私の中を流れていった。

「流した髪の毛にメガネ……長身…」

一番隊というだけあってがたいのいい成人男性に泣き疲れている私の図は、本当に、最悪な勘違いをされているらしい。

「ち、ちが、違うううう」
「やっぱり違うんですか!!私は捨てられたんですかァァァァ!!」
「うるさい神山ちょっと黙れいや永遠に黙れェ!」

ゲシッ、と効果音がするくらいに全力で神山の足を蹴り飛ばした。神山は痛みに悶えて横たわる。
ハァハァと私の荒い息がこだまして、なにも悪いことなんぞしてないというのに熱っぽい目でこっちを見るさっちゃんさんに無性に謝りたくなった。

「容赦ないその蹴り…。ふ…っあなた、なかなかどうしてやるじゃない」
「だから!どこまでも勘違いだし誤解だしィィィ!!」
「ごゆっくり!!」

そう言った瞬間にさっちゃんさんは消え去った。そう、表現するしかないスピードで、走っていった。
ああ、そのままお妙さんの家に戻るのだろう。
横たわる馬鹿を私の恋人だと勘違いしながら、話に花を咲かせるのだろう。
冷静に回る頭とは裏腹に、身体は花に養分を根こそぎ吸い取られた土のごとく重かった。
やはり、私には非番より馬鹿のいない仕事場より、いつも通りが良かったのだと、そう思った。


アマゾン川に集う

(沖田くん…近藤さん…副長…山崎…早く帰ってきて…!!)

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