「なんかすみません。副長だって寝たいでしょうに」
「だったら朝の総悟の奇襲を止めさせろ」
「やだね」
「お前とことん俺のこと嫌いだな!」
「分かります?」
ていうか、あの上司と常日頃からいて好意を抱けってほうがムチャだね。
その後また何か返してくんだと思っていたのだが、副長は黙り込んでしまった。
…なんだこれ。気まずい。だから嫌だったんだけどねェ。
「…ここの所、ある天人の動きがおかしい」
「…はあ」
この人は口下手というかなんというか。突然脈絡なく話を始める癖を止めてもらいたいもんだ。真選組じゃあ頭はいい方のはずなのに。
ま。まどろっこしいよりは好きだけど。
「奴らの母星は人身売買のシンジゲート状態らしくてな。とっつぁんも目を光らしてんだが、何もねえ。…のが既に何かしでかしてやがる証拠だ」
「……………」
「今回の家出事件にしたって、俺たちの目をそらす陽動に思えて仕方ねぇ」
「………………だと、したら。どこかに…」
「天人と組んでまで、なにがしてぇんだか」
佐々木さんが言ってた財閥。
私は答えを知ってる、けど。
「佐々木には気をつけろよ」
「…気をつけて、私ごときでどうにかなる相手じゃないですよ」
「用心に越したことはねえだろ。幕府で権力争いしてる連中の動きも臭えからな」
副長のそんな言葉がどこか遠くで聞こえた。
「…副長。弱いですね、私ら。そういう奴らと渡り合っていかなきゃなんないってのに、出来の悪いバラガキにゃ無い武器ばかり使って来やがるんですから」
伝統も何もないただの幕府の犬と、権力を笠に着た名家とじゃあ持ってるものが違う。
ただ、そこまでして守りたいもの、というのは何なのだろうか。
「十分だ」
副長はハンドルを切りながら呟いた。
闇を切り開くライトが反射する。
割と緩やかに転がり進む車。
大きな屋敷の門の立ち並ぶ官庁の辺り。
コイツ
「そんなもん、刀だけで十分だ」
それはいつになく力のこもった呟きだった。
言い終わると気恥ずかしいのか備え付けの灰皿にタバコを押し付ける副長。
「……ですね」
小さく私はそう返した。
そうだ。
彼らはきっといつだってそれだけで奴らと戦ってきたのだ。
だったら私だって何も、臆することなどありゃしないんだ。