夢喰 | ナノ


―良かったら、うちに住みませんか?

目の前の白い男は確かにそういった。
頭を巡る血が一斉にストップをかけて思考がうまく働かない口から出たのは何とも間の抜けた声。

「…はい?」

え?今これ、俗に言うプロポーズ的なこと、されてません?

「いえ、見廻組(ウチ)には女性もいますし、風呂もトイレも物干場も別でありますし。あ、あと個室に鍵もついてますね。
この間の貸しもありますし友好を深めるためにも、どうですか」

プロポーズとかおこがましい勘違いすいませんっしたってかええええええ!!
な、な、なんだとおおお!!
いちいち中に誰もいないことを確認して貰ってから肩身狭い思いで風呂に入ったり下着をコインランドリーで乾燥させたり不可抗力とはいえ着替えを覗かれたりしなくていいのかあああああ!!
それはなんとも魅力的だった。出来立てのバニーチュロくらいは魅力的だった。
でも、いくらなんでも見廻組だ。真選組の敵だ。
直接見聞きしたのは一部だが、この人のやり方は認められない。
そんなところに住める訳ない。私はどうやって断ろうかと画策していた。

「おい宝生…」
横から副長の声。そうだ!びしっと断ってください副長!
上司に言われたとなれば私が気まずい思いで返事をするまでもないはず!

「行ってこい」
「は?」

はい?

今、なんと?

1日に2回も自分の耳を尋問するとは思ってなかったぞ。

「有り難い申し出だ。お前昨日風呂覗かれただなんだって騒いでただろ、ちょうどいいじゃねーか」
「え?副長ったら状態キツ…もがっ」

がしっと方に手を回されて口をふさがれ、顔を近づけられる。
「(あっちから自分の本拠地に招いてくれてんだぞ。アイツの弱みの一つでも握ってこい)」
「(えええええムリムリムリそーゆーのは山崎とか監察の仕事ですから私一番隊ですからっ)」
「(テメエ隊士だろーが!ごちゃごちゃ言うんじゃねえよ命令だ!)」

しばらくひそひそと言い合っていたがそう言われたらもう、為すすべはない。

その案に、素直な近藤さんが頷かない訳がなかった。友好関係を築いてきてね!でも罠かもしれないからムチャしないでね!見廻組の懐に潜り込んで何か情報を掴んできてくれ!とまで言われてしまった。
……断れるわきゃないじゃん!!


「そういう訳で、よろしくお願いしますね。宝生さん」

いつの間に電話帳に"サブちゃん"という人物が登録されてんのとか
なんで名前知ってんのとか
つっこむ気力は私にはもうなかった。

松平さん。
貴方にこの職場を紹介されて一年ちょっと。
なんとかやってますがやっぱりろくでもないです。


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