夢喰 | ナノ


佐々木くんが攘夷浪士に捕らえられて見廻組といざこざを起こした戦いは熾烈を極めた。

ちゃらんぽらんだと思ってた万事屋さんが元攘夷志士だったのもすっごい驚きだったんだけどさ。
なにあの佐々木くんのお兄さん、エリートってか化け物だよ?あれ。
副長も圧倒するなんて…。
私は視界の端に白を捉えながら愛刀を振り回した。
無心のはずだったのに。
佐々木異三郎の、何時もは眠たげな目が嬉々とした表情をしているのが忘れられなかった。

あれから幾日かすぎた。
同じ女として、あの美少女隊士が気がかりになるけれど死んじゃいないと確信めいたなにかがあった。沖田くんも言ってたし。
見回りを終えて後は屯所へ戻るだけなのだが、午後が非番なのでもう一人の隊士を帰らせ1人で町中を歩いている。隊服の女というのは存外目を引くらしい。この格好のまま外を出歩くことはあまりないので注目の的だ。
視線にいやなものを感じて、足早に歩く。するとふとただよう甘い匂い。空腹もあって角を曲がった。すると眼前にそびえ立つ、楽園。

「ま、マネコンができてるううう!!」

しかもマスドの隣に!
何を隠そう、ワッフル(ワッフルって言ってもベルギーワッフルね!ここ重要)が大好きな私にとってはマネコンは神に等しい。
だけどこの付近にお店がなくて中々食べられない。これは買うしかないでしょ!と近づいてみればオープンは明日から。なんだ、中にいるのスタッフさんか。
私はがっくりと肩を落とした。美味しそうなワッフルのポスターを見ていたら余計にお腹が減ってきた。仕方ない。マスタードーナツにしよう。
その代わり明日はマネコンのワッフル買うんだ!と私は意気揚々と店内に乗り込んだ。
トレイとトングを持ってカウンターの前へ行く。
確か山崎が作文書いてたはずだから差し入れに一個持って行ってあげようと適当に目の前にあったゴールドファッションをトレイに運ぶ。次に自分の分のバニーチュロをトレイへ。
そうだ、沖田くんにも買ってってあげようと最後の一つが残っているポンテリングに手を伸ばしたそのとき
大きな手がポンテリングをかっさらった。
運悪っ!誰だよ、とその相手を仰ぎ見ればびっくりすることに

目があった。

「こんにちは」

しかもさらにびっくりすることにその人物はついこないだ斬り合ったばかりの見廻組の、局長佐々木異三郎だった。
そうか私は見廻組の管轄に入っちゃったかとか考えながらどうもと返事を返すことしかできなかった。私を見つめるその目はあの時とは打って変わった眠たげな、いつものもの。

「ポンテリング…」
「へっ?」
「すいませんね、取ってしまって」

また何か嫌みでも言われるのかと思ったのに律儀にも彼は頭を下げてまで謝ってきた。

「もう少しで新しいのが追加されると思うんですが」
「そ、そうですか…」

まだ頭は若干混乱してた。隊服も着ているし私を真選組だと認識した上で話しかけるその真意が汲み取れない。

「お待たせしましたーっ!」と、元気よく店員さんが新しいポンテリングを追加した。別に違う味でも良かったんだけど隣の男に何となく気が引けたからそれをトレイに乗せて会計を済ませる。
隣のレジで佐々木…さん、も会計を済ませていた。終わるタイミングはほとんど同じだったので自然と並んで歩く形になる。

ていうか、なに。この状況。

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