夢喰 | ナノ
42

「――降参です、と言いたいのですが…。あいにく、そういう訳にもいかないんですよ」
「うん」

光ることを隠さず鋭い視線が注がれた。
警告だ。
しかし、この間とかくらべものになんないくらいに危険な警告だ。

「これ以上首を突っ込むと、消えるのはアドレス帳や隊士名簿どころの話じゃ済まなくなりますよ」
「うん」
「まだ死にたくないでしょう」
「そうなったらそうなった時だねェ。で、他に!言うことは?」

高鳴る胸の鼓動。高揚感は増すばかりだ。

「残念ですが、単独捜査の理由も目的も教えるわけには…」
「別に良いよ。教えてくんなくて」

「…は?」

ぽかんとした顔。
その顔はまだ、見たことがなかったな。
人が言い返せない状況は、言い返せないほど恥ずかしいか、図星かの他に理解が出来ないときと言うのも加える必要がありそうだ。

「だからさ、別に私は佐々木さんを貶めようとか思ってるわけじゃないの(上司は別として。)…それを知ることに意味なんか無いよ。だから、聞かない」
「………」
「もっとほかに言うことは?」

これが、仕事なら私はこんな風にはなれない。
でも、宝生智香としてなら。本心から言葉を紡ぐことが出来た。
この気持ちに意味なんか付加するのは無粋だと思ったのだ。自分からこんなに純粋な感情が出てくるなんて思っても見なかった。
結局のところ佐々木さんは佐々木さんだ。
どんなことしてても。

「……虚偽を含んだ事実を伝えて、宝生さんを都合よく利用しようとして……すみません」
「うん!」

今度の笑みは、自然と沸き上がって来るもので。


「仕事とか関係ないって言ったでしょうが。
私は、個人的に、そういうのが特に許せないから協力したい。
――それに、佐々木さんの力になりたい」

理由なんか要らない。必要ない。だから、作らない。
私はじっと、真剣に佐々木さんを見た。

「…いつか、そのお人好しで身を滅ぼさなければよいのですが」

諦めたように笑う佐々木さんは、確かに私を隣に立てる人間だと認めてくれたのだ。

「その有能さに免じて、腹部の傷を確かめるのは諦めます」
「っ!」

プールにそんな意味があったとは。(ワンピース着てきたらどうするつもりだったのかは聞かないことにしよう)
想像以上に私のことは知られてるらしい。
隣に立つことが出来てもやっぱり、彼はまだまだ上手だ。

「じゃあ、早速捜査に出向くとしましょう。2人で」
「…ん!」

元気良くそう返事をした。
運ばれてきた定食を受け取って、空いたスペースに簡略化した江戸の地図を広げる。

俗に言う貧民街。
佐々木さんは無言でそこを指差した。


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