夢喰 | ナノ
16

「おはようございます。○○さん。朝から会えるなんて珍しいですね。嬉しいです」

「お仕事頑張るのもいいですけど、無理しないでくださいね◆◆さん」

「夜遅くまでお疲れさまです××さん。よかったらこれ、どうぞ」

ニコニコニコニコ。
ここの所、毎日意味もなく笑ってる。
見廻組のあんぽんたん共に媚び売ってる私はなにぽんたんなのか。
親善大使という名目で見廻組に住まわせてもらうようになってから二週間が過ぎようとしていた。
実際は諜報活動みたいなことをしてんだから両組の関係が良好になったかどうかなんて聞かないで。
そろそろ顔の筋肉が限界っぽい。

「智香、何してんでィ。気持ち悪ィ」
「顔の体操ー。最近ひきつりそうでねェ」
縁側で休憩してたら沖田くんに声をかけられた。その手にあるオシャンティーなアイマスクはなにさ。絶対仕事する気ないだろ。でもアイマスクかわいい…
…とか考えながらぐにー。と頬を引っ張ってぐにぐにと上下左右に動かす。ああ、気持ちいい。

「見廻組の内情は大体分かってきたんだけどさ、いい加減鬱陶しくなってきた」
「モテないチェリー共に良い夢見させんのも楽じゃねぇってか」
「それもこれも副長のせいだコンチキショー。あんにゃろーの命令でこんなことになってんだ!山崎もいないし!大体ズルいんだよあの人、近藤さんにお願いさせんだもんよ、断れるわきゃないじゃん」

そう。
今私は見廻組のエリートの中でもプライドばっかり高くて女にモテないバカを手のひらで転がして情報を得ている。

ニコニコ笑って話を聞いて誉めてやればそれで自分に気があると思いこむんだから本当におめでたい。
それでいて何も行動を起こさない卑小さに嫌気がさす。即ち私が告白するのを待ってやがるのだ。
別に俺に気があるんなら身分の低いおまえともつきあってやるぜみたいなスタンスが許せない。…いや、私に見合う男はやっぱその程度か。
しかし元凶は間違いなく副長だ。

「智香もやっと土方のヤローを殺す気になったか。それでこそ俺の部下でィ」
「や、殺すとかまではいかなくてもさ、ちょーっと仕返しくらいはしてやりたい」
「お前の事だ。もう内容考えてあんだろ」

流石沖田くん。おつむは良くない癖にこーゆう所は逐一気がつく。

「今から言う店にカメラ持って張り込んでくれる?」

使いきりカメラを沖田くんに渡した。

「面白いもんが撮れんだろーなァ」

にや、と沖田くんが笑う。

「まかしといてよ。私も堪忍袋の尾ってやつが切れる寸前だから」

冷ややかに言い切った。多分目は据わってる。

さぁ、囁かな復讐のはじまりはじまり。

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