夢喰 | ナノ


「おはよ、山崎」
「おはよー…って智香ちゃん!?」

出勤して食堂に入った私は視線と言う名の洗礼を受けた。
きっととんでもない噂が流れてんだろうなあと思う。

「びっくりしたよ!いきなり引っ越すなんて言うから…。しかも、見廻組に…」
「…だれより一番びっくりしてんだけど、私」

適当に山崎の隣に腰を下ろした。彼は咀嚼しながらも私の話を聞いてくれる。
昨日、午後が非番なのを良いことに荷造りを命じられてしまった。元々私物も多くはないので1人でも粗方片づいたが、運ぶとなれば話は別。
アリさんだかネコさんだかは知らないが業者さんにお願いする事になるだろう。

「てか、山崎監察官の目から見てもやっぱしこれ、おかしいよねェ?」

はあ、と思わずため息が出た。海より高く山より深い事情のせいだ。
山崎はしばしうーん、と渋い顔をしていたが朝食の欠片を飲み込むと口を開いた。

「真選組を潰そうとしてたわけだしね、完全な厚意からじゃないとは思うよ」
「だねェ…。なのに副長、佐々木さんの弱みの一つでも握ってこいとか言うわけ。ムリムリムリ。逆にハメられるって………山崎?」
「よォ」

山崎がぽかんと運びかけだった箸に白米が乗っかったまま固まっていた。…と思ったら後ろから声。慌てて振り返ると…所謂、ドS星のサド王子というやつがお出迎えしてくれた。
後ろにはボロボロの副長が見える。…目をそらさんでくださいよあんたの命令でこうなってんですよ。

「…おはよーございます…」
「えらい噂になってるが見廻組に買収でもされたかィ?」
「いくら佐々木さんでもそんな事しないって。てか私なんだと思われてん…」
「それでさァ」
「は?」
「だから智香があの腐れ外道を誑かしてくりゃあ土方を始末させて…」
「黙れ腐れ外道」

沖田くんの顔がすっごいイキイキしてる。ていうかニヤニヤしてるううう

「ふざけんな総悟ォォ!」
「ふざけてんのはあんたでしょう土方さん。俺の便利な手ご…可愛い部下を好き勝手使いやがって」
「言い掛けたよね!?今手駒って言い掛けたよね!?なんで部下のとこ棒読みなんだコンニャロー!!」

チキショーなんで上司がこいつなんだ!

「奴さんに土方暗殺なら喜んで手ェ貸しやすぜって伝えとけ」
「…私なんだと思われてんのかもっかい聞くのがなぜこんなに不安なんだろう教えておじいさん」
「アルムのもみの木に聞いてこい」
「副長で手ェ打つんで教えてくださいよ」
「……バカのお守りだ」

諦めたように、副長と私。
この傍若無人にも慣れてしまった自分怖い。


「じゃ、私仕事あるから失礼するよ」
「朝から熱心だねィ頭が下がりまさァ」
「隊長がもっと働いてくれりゃ私も1日丸々非番とか取れんだけどねェ!!」
「冗談キツいねィ、俺ァこれ以上働いたら過労で死んじまわァ」

昨日からの精神的疲労で、もう、つっこむ気力がなかった。

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