夢喰 | ナノ
76

―――もうすぐ死ぬってのに、なんでそんなに嬉しそうでありんすか
―――死ぬより生きることのほうが辛いこともあるじゃろう?ここは只の快楽だけで、恋だってないからのう
―――恋?
―――そう、恋。
―――恋って、良いものなのかえ?
―――ああ。とっても。
―――へえ。
―――とっても良いもの。一言話せただけで嬉しくって馬鹿みたいに浮かれたり、その人のことを考えるとどきどきして、胸が痛くなって夜も眠れなくなっちゃったりしてね。
―――・・・病気じゃろう、それ…
―――違うわよ。とにかくね、女は恋をすると幸せになれるんじゃ。
―――しあわせ!?恋をしたら、幸せになれるのかえ?
―――そうね。苦しいけど、幸せよ
―――わっちには分からない

―――じゃあ、分かるときが来たら…
―――
―――…
―――……

……………………
……………………………

……………………………………
……………………………………………

物心ついた時にはそこにいたから、もしかしたら私はそこで生まれたのかもしれないし、もしかしたら地球人ですらないかもしれない。私のいた遊郭は、戦争の最中連れ去られたか、借金のカタか口減らしだとかで売り飛ばされたそれはもう様々な星の女が入り混じるところだったから。今思えば恐らく一度か二度、商売する星も変えてるし。
地球に居ついたのは、十年ほど前かな。多分だけど。地球に来るころには私も立派な「商品」になってたよ。まあでも地球人相手の商売じゃなかったけど。ああ、だから長年見過ごされていたんだろうねェ。…全く、そんなところにも何ふり構わずメス入れて、本当に悪ぶってるだけさねェ松平さんは。
まあ、遊女として生きてるだけの私には目標も理想もあったもんじゃないし、本当、生きる屍って感じだったね。だからこそ長持ちしたんだろうけど。まあ、「使い物」にならなくなったらポイだから。あ、でも無駄にはしてなかったよ。何一つ、ね。壊れたら綺麗に殺して、売り捌くんだ。ホルマリン漬けにしてそのままとか、中身も外身も密輸したり?
あー、それでさ、そんなだから適当に戦争孤児とかで補充しててアシがついたのかも。しれないねェ。

…いや、目標も理想もあったなあ…。死んでいく遊女たちがさ、揃って口にして教えてくれたんだ。それをしてたら、こんなところでも少しは幸せだろうってさ。だから、とてつもなく高くて現実味がなくって、諦めかけてたけど。でも、本当に知りたかったんだ。だからあの時、死にかけてるにも拘らず「助けて」とか「生きたい」なんて言葉より先に口を出てしまったんだろうか。なんてね。今思えば無理難題ふっかけちゃったなあ。
それだけ追い求めてたよ。それだけに妄執して、屍になっても生きてたよ。
……なんの根拠もないものに縋れるほど、もう無垢でもなかったのにさ。


まあでも、他人が納得できるような答えを持ってれば、誰も苦しんだりしないんじゃないのかなって、あの人見てて、ちょっとだけ、思ったよ。

……………………
……………………………

……………………………………
……………………………………………

[*←] [→#]

[ back to top ]