夢喰 | ナノ
61

一日が始まる。
稽古を終えて、執務室で仕事をしていたところに会議を終えて沖田くんが入ってきた。


「智香」
「ああ、沖田くん。どしたのさ」
「明日の仕事だ。怪しい天人が地球を出る前の検問捜査だと」
「ふーん。そういうのって、入管の仕事じゃなかったかねェ」
「向こうは武力なんざ持ってねえからな。どーにもきな臭え奴ら相手ってことで、お鉢が回ってきたんでィ」
「あー。そっか」

確かに納得だ。
…しかし、その天人って佐々木さんが言ってる『とある方』…清水財閥と組んでる天人だよねェどう考えでも。
奴らの目的は身よりのない地球人を攫ってどこか別の星に売り飛ばして儲けること、だ。
なら、そんな検問入ることも分かってるだろうし…どうやって攫った人を隠すつもり…?

そんな事を考えてたら、沖田くんが真剣な表情でこっちを見ていた。
すこし眉根を寄せた、険しい目で。


「…今日はまたえらく機嫌が悪いねェ」
「なんでそんなことわかんだよ」
「一年あんたの部下やってりゃ、十分だよ。本当、弟がいたらこんな感じなのかね…っ」



バアン!!



空気を裂く音。

私は本当に何気なく、思ったことを言っただけだった。ここで帰ってくるのは「兄貴の間違いだろーが」とか、きっとそういう類の言葉だと、思っていた。

―――実際は、沖田くんは、机を殴った。


「お、沖田くん…?」

当然の事ながら訳の分からない私はそう返す。しかし、沖田くんの機嫌は更に目に見えて降下して、私は混乱するばかりだ。

「その目…」
「え?」
「一晩見ねーうちになんて目ェするようになってんでィ」

「…目?あのね、沖田くん何言って………」

「あの時の―――あの時の姉上と同じ目だって言ってんだ!!」

「っ」



私は何も言えなかった。

数秒遅れて、隊士が駆けつけてくる足音。
襖を開けた彼らと入れ違いに、沖田くんは出ていった。

「宝生さん…?」
「悪いね、神山。大丈夫だから」

もしかしたら、沖田くんは私を『妹』と思わなければ、やっていけなかったのかもしれないと、この時初めて気がついた。

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