書きかえるだけ。
にっこりと、笑いながら手を振ってとなりに居る私の母らしい人と手をつないで歩く。
これから空港に向かうそうだ。急展開過ぎてついていけない。
「手紙送ってもいい…ですか?」
「は、はい!大丈夫ですよ…そ、その。わ、私たち親子なので、敬語じゃなくて普通に話して良いです…よ?」
「わかった。ちょっと敬語するの難しかったの。気にしないで話すね!」
私の答えを聞いてほっとした表情をするギュッと私の手を握りしめる私の母らしい人。
そういえば、名前はなんなんだろう?聞いてなかった。
と今さらながら思い立って、聞いてみる。
「あのさ、お…お母さんの名前ってなんていうの?」
「あ…言うの忘れてましたね。ごめんなさい。私の名前はトオルと言います…あの、アスカちゃん」
「な〜に?」
「私の事を、母とは言いにくいですか…?」
不安そうに聞いてくるトオルさんに、ドキっとした。
さっきは、トオルさんの事をなんて呼べば良いのかわからなくて、お母さんと言った。
けど、私のお母さんは、私の元の世界のお母さんであってこの人じゃないから。
だから、少しドモってしまった。
「…そんなことはないけど、お母さんできるの初めてだから」
使うの初めてなの。
この世界でお母さんという単語を使ったのは初めてなので、嘘ではない。
「…そうですか?なら良いんです。けど、使い慣れなければ違う風に読んでくれてかまいませんから」
寂しそうに笑うトオルさんに、少しだけ胸が痛くなる。
思っていたよりずいぶんと私にとってはキツイ言葉だったみたいだ。
お母さん…なんだか会いたくなってしまう。
って、私が勝手に、適当に進んだ道なのに、家に帰りたくなるっておかしい。
楽しむって決めたから、だから今からは暗くならないで行こう!
「ううん。慣れるまで待ってくれれば大丈夫だから!」
無理やりにでも、お母さんをこの人に置き換えよう。
前の世界の事なんて忘れなきゃね!忘れちゃ駄目だと思うけど、この体はこの世界のものだから。
書きかえるだけ。
簡単じゃん。
「ちょっとだけ、待ってて」
そうすれば、短絡的な私だから直ぐに呼べるようになるよ。
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