三年経過
この世界に来て三年が立った。
最初の一月は実は夢じゃないの?と少し期待を込めていたけれど、三ヶ月位立ってから諦めた。
ふざけていたとしても自分で選んでしまった道なんだ…と少しセンチになったりしたけれど、三年も立つとそんな事もなくなって保母さん気分を味わっていた。
私の住んでいる孤児院には子供がたくさんいる。
もちろん私の元の体よりも年上の人はいるのだけれど、それでも子供がたっぷりなのだ。
院長先生だけでは対応しきれない時もあったりするので、年上の子は下の子と一緒に遊んであげたりするのが仕事でもある。
ほかの子は下の子を面倒がりながらも兄弟な感じで接しているのだろうけれど、私の元の年齢は19歳だ。
兄弟には見れない。つか見れる訳がない。
保母さん…というよりも、学校で保育の実習にきたよーって感じの人の年齢だけれど、まぁいろいろ説明し難いから保母さんの気分なのだ。
「アスカさ〜ん?ちょっとこっちきてくれませんか?」
「はーい!」
院長先生に呼ばれた声を聞いて直ぐに、バタバタと音を立てながら院長先生の居る部屋に近づいた。
部屋に入る前にピタッと止まってからノックをしてドアを開いた。
「どうかしたの?」
中に入る事はしないで、ドアから頭を出して院長先生に聞いた。
院長先生の前には真白な髪の毛をした外国人のような人がいる。
ような人って所は、少し日本人に似た顔もしているからだ。
ハーフなのかな?と思いながらその人を少しの間見て、院長先生の方を向いた。
「部屋の中に入って良いのよ?おいでなさい」
こっちこい。と手を振っている院長先生に、少し迷いながらもバッと素早く院長先生の隣に正座した。
因みにこの部屋は和室だ。
「アスカさん。落ち着いてお聞きなさい?このあなたの目の前にいる方はあなたのお母様です。あなたをお迎えにきたそうですよ」
院長先生の言葉を聞いて、目の前にいる私の母らしい人を見た。
私を見て、ぎこちない笑みを浮かべる。
そのぎこちない笑みを見て、ああ。私とどういう風に接すれば良いかわからないのかぁ…とそういう雰囲気を感じた。
手放した…というよりも、預けた子供にどう接すれば良いかなんて正直分からないと思う。というか、私はわからない。
「はぁ…そうなんですか。えっと、はじめまして?で良いのかな…あ、でも親だったらはじめましてじゃ変ですよね」
えへへ〜と笑いながら話した。
猫を少し被っているので、一応敬語を使っている。
子供らしく、少しぎこちない敬語。でもこの程度の敬語じゃないと違和感を感じるよね。
だって私まだ10歳だもの。
「そうです、ね。私にとってははじめまして…ではないけれど、アスカちゃんにとってはじめましてだったら…それでもかまわないと思ってます」
寂しそうに笑いながら言った言葉に、どうすれば良いのか少しわからなくなったけれど、はじめまして。と小さく呟いた。
会った事は、あるのだと思う。
けど、覚えていない。
トリップしてすぐは覚えていたのかも知れないけれど、この施設に預けられる前の記憶は、正直に言うとなかった。
「えっと、私たち、これから一緒に住むんですか?」
「その、アスカちゃんが良ければ一緒に住んでくれると嬉しいです」
「遠慮なんて全然してない!…です。これからよろしくお願いします」
ペコーと腰をおる。
私が直ぐに一緒に住むと言った事に動揺したのか、オロオロと私の母らしい人は周りを見渡した。
その行動を、院長先生は苦笑いして見ながら口を開いた。
「さて、そうと決まれば直ぐに準備をしてきてくださいね。今日、お母様と一緒に行ってもらいますから」
「今日!?」
「ご、ごめんなさい!その、雪子ちゃんには言っていたんですけど…雪子ちゃん。アスカちゃんに言ってないの?」
オドオドした顔をして、院長先生の名前を呼ぶ私の母らしい人を見ながら聞いてない!と心の中で叫ぶ。
院長先生に抗議をしようとして、思いっきり睨みつけると院長先生は柔らかく笑った。
「人を驚かせる程面白いことはないのですよ?さあ、あと一時間で出発ですから二階に上がって?」
疑問形で聞いてくるけれども、命令形に感じるのは何故なのか。
けれどもこういった院長先生の行動に今までの生活で慣れているので、抗議しようとした自分の心をなだめながら慌ただしく部屋を出た。
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