クリームシチュー
ぱちん
そんな効果音をつけたかのように、急に消えてしまった二人に、便利なものだ。と小さく呟いた。
二人が居なくなった途端に、静かになる公園に、母さんの顔を見ていいのか分からなくて、下を向いた。
「リチェッタちゃん」
そのままジッとしていると、柔らかく、甘い声が聞こえてきて、思わず顔を上げる。
私は、小さい頃からこの声色が好きだ。家族の中心は、ダドリーでないといけないのに、まるで、私が一番だと錯覚してしまいそうになる。
「リチェッタちゃん…ママはね、ママはあなたが大好きよ」
「私も…母さんが、好きだ」
聞いた事のある言葉だ。
ハリー・ポッターへの大量の手紙から逃げるように、家から出る少し前に言われた言葉。
「…もちろん、父さんと、ダドリーも好きだ…どう、思われているかはわからないが…想うのは、好きにしても…」
細々と出てくる言葉は、嫌われていたら。という不安からだ。
でも、大丈夫だ。母さんは、私を好き。これなら、家に帰れる。
「…夕飯は、クリームシチューがいい」
口を開いて、閉じてを繰り返す母さんを見て、何気なくリクエストをする。
母さんの事だ。最近鶏肉を嫌がった私のために、牛肉などを使ってくれる事だろう。
「母さんの、御飯が食べたいんだ。車の中で食べた缶詰は美味しくなかった」
「ええ、ええ…そうね。バーノンもダッドちゃんも、お腹が空かせているわ」
手を繋いで、家に戻る。
それだけなのに、母さんの手は、少し震えていた。
…大丈夫、母さんは、私を好きだ。
怖いから震えている訳じゃない。
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