もしかすると、
トオルが、我が家のインターフォンを押して、聞こえてきた声にびくりと身体が震えた。
母さんの声だ。
父さんがボロボロにした玄関のドアから、顔をのぞかせた母さんは、数時間前と殆ど変らなかった。
怯えた表情をしている。やはり、ホグワーツという学校に行くのは無理なのではないだろうか。
そもそも、私と喋ってくれるかすら、わからなかった。母さんは、私のような魔法力のある人間は奇人と思っているんだ。もう、娘とは呼んでくれないのでは…?
怯えながらも、はっきりと見開いた瞳と視線が合う。
「ッ!リチェッタちゃん!!」
「母さん…」
視線が合った途端に、怯えた表情が消えて、小屋の中で見たあの表情とは全く違った。
ふだんの、ただの普通よりも心配性な母さんに戻っていた。
その事に、抱きついてきた母さんの背に、手を添える。まるで、何事もなかったようで、酷く安心した。
こんな玄関先では難だろう。
そう言われて、みんなで公園に移動する。
「ご近所の目にさらされないよう、魔法をかけたので…大丈夫ですよ」
公園に移動した方が難だろう。そう思っていた矢先に言われた言葉に、警戒心が拭えない。
かけられているのか、全く判断がつかない魔法だ。
「あぁ、そうなの…久しぶりね」
判断がつかない、よくわからないモノに、全く反応を示さずに納得したように小さく頷いた母さんに、思わず目を見開いた。
「母さんは魔法が嫌いじゃないのか…?」
「嫌いよ。だいっきらい。私の大切なモノを全て奪おうとするもの…リチェッタちゃんまで、奪おうとするわ」
「ペチュニアさん、と呼んで大丈夫…ですか?」
「もう良いわ。ここには私たち以外いないでしょう?昔と同じで平気よ」
ふぅ、息を吐いた母と、トオルの顔を見比べる。
随分と仲のよさそうな二人に、何が何だかわからなかった。
「ありがとうございます。ペチュニアさん…簡潔に言いますが、リチェッタさんをホグワーツに入学させます。」
「嫌よ」
「駄目です。彼女の力は既に暴走しています。このままではマグルの世界で余計なことが起きる。力が弱ければ問題はないのですが…リチェッタさんは、力が強すぎます」
「ダドリーや、バーノンにどう伝えれば良いの」
「…そうですね、ホグワーツに責任を擦り付けましょう。魔力のコントロールのため、無理矢理入れられた。
それで良いではないですか。ハリー・ポッターも保護者の確認はとっていません」
「そんなことして平気なのかしら…」
「えぇ、このくらいの責任はどうにかできます」
「なら良いわ。いろいろ条件をつけても平気かしら?」
淡々と喋って、最後に小さく笑った母さんに、あんぐりと口を開けそうになる。
条件は、私には聞かせたくないのだろうか。少し離れて会話する大人二人を見て、どうしようかと隣にいる女の子。アスカを見る。
向こうもこちらを見ていたようで、ばちりと視線が合った。
「案外あっさりしてるね」
「…ああ。心配していた私が馬鹿のようだ」
解せないといった表情をしているアスカに、何だか気が抜ける。
どうやら、私だけではないようだ。この状況は可笑しい。魔法嫌いなはずなのに…
「…母さんは…」
もしかすると、魔法が好きなのだろうか?
「ん?どうかしたの?」
「いや、なんでもない」
小さく浮かんだ事を、振り払った。
魔法が好きだったら、魔法という単語をあんなに嫌った理由が出なくなる。
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