そんな瞳で私をみないで
ドーンと、大きい音が聞こえた。
その音を聞いて、眉間に皺を寄せる。
煩い。凄く煩い。
眠い人にとっては近所迷惑だ。
近所迷惑?…そういえばここは我が家ではなかった。
海の上だ…海の上?海の上ならなぜこんなに大きな衝撃音が聞こえてくるんだ?
「何?大砲?どこ?」
ダドリーの声が聞こえたと同時にハッと目を開いた。
状況がよくわからなかったが、みんなが見つめているドアの方を見る。
「誰だ。そこにいるのは。言っとくが、こっちには銃があるぞ!」
父が叫んで直ぐ
轟音をあげながらドアが、勢いよく倒れこんできた。
倒れこんでくるのを見て、慌てて立ち上がり後ろの方へ下がる。
自分の居た場所の近くにドアは倒れた。
…何故ドアは倒れたんだ?風化はしていたとは思っていたが壊れる程ではなかったはずだ。
怪訝な表情をしながらドアのあった場所を見ると、でかい男が居た。
「世界記録が更新できるな…」
あまりのでかさに思わず呟いた。
こんなでかい男は見た事がない。見た事があっても精々190p程度だ。
呆然としながら男を見ていると、男は部屋の中に入ってきてドアを元の場所に戻してから。
「お茶でも入れてくれんかね?いやはや、ここまで来るのは骨だったぞ……」
と言った。
お茶があるなら私が飲みたい位だ。今現在も寝る前の寒さは変わってはいない。
若干自分が現実逃避に入ってきている事を感じながら思った。
男は部屋の中を進み、ダドリーの前で止まった。
なぜダドリーの前で止まったのかは不思議に思ったが、ダドリーになにかやったら家を追い出してやろうと思った。
「少し空けてくれや、太っちょ」
そう男が言った途端、ダドリーは母さんの方へ逃げ出した。
ダドリーの逃げた方向に私以外の家族が揃っていて、少し寂しく思えた。
私が居なくても、あそこは家族だと思えたのだ。
…あの中に居たら、私だけ怯えていなくて浮いている。
「オーッ、ハリーだ!」
少し暗くなり始めていた時に、明るい声が小屋を支配した。
私は…今何を、考えていた?
私がいなくても…とか。母さんが聞いたら泣いてしまうだろう。
いけない、普段の私に戻らなければ。
「最後におまえさんを見たときにゃ、まだほんの赤ん坊だったなあ。あんた父さんにそっくりだ。でも目は母さんの目だなあ」
直ぐに気を取り直して、ハリー・ポッターに話しかけている男を見た。
「今すぐお引き取りを願いたい。家宅侵入罪ですぞ!」
「黙れ、ダーズリー。腐った大すももめ」
銃を向けながらだが、正論を言っている父さんにその返事はないだろう。
法律的に間違っているのは貴様だ。
そう言おうかと少し迷っていると、男は父さんの持っている銃を引ったくり、折り曲げてしまうどころか結んでしまった。
その事に驚いて口を紡ぐ。
「なにはともあれ…ハリーや
お誕生日おめでとう。おまえさんにちょいとあげたいモンがある…どっかで俺が尻に敷いちまったかもしれんが、まあ味はかわらんだろ」
ハリーポッターは男が出した箱を受け取り、箱の中身をみた。
恐る恐るという所だろう。
けれど、箱の中身を見た後に少し嬉しそうな表情をした。
私の位置からでは、箱の中身を見ることができない。
「あなたは誰?」
男の方を見て、ハリーポッターは言った。
ここで聞くのか?と思ったが、私もこの無礼な男が誰なのかが気になっていたので、男の方を見た。
「さよう、まだ自己紹介をしとらんかった。俺はルビウス・ハグリッド。ホグワーツの鍵と領地を守る番人だ」
笑いながら言っている男に、答えになっていない。と思った。
だいたいホグワーツとはどこ…ホグ、ワーツ?きいた事があるような気がする。
何の事だっただろうか。最近聞いたばかりな気がした。
私が考え込んでいると、やんわりと温かい空気が流れてきた。
…暖炉に火が付いている。
男が暖炉で調理を始めたのを眺めながら思った。
もしかしてこの男は、私やハリーーポッターと同じ奇妙な力を持っているのではないかと。
あの暖炉には燃えるものなんてなかった。それ以前にこの小屋は湿っている。
短期間のうちに火はあんなに燃え上がるものではない。
ホグワーツ…
「ダドリー、この男のくれるものに、一切触ってはいかん」
もう少しで思い出せる。そう思った所で父さんがダドリーに注意をした。
考えている事が遮断されて、思いだせそうだった事を忘れてしまう。
「おまえのデブチン息子はこれ以上太らんでいい。ダーズリーとっつあん、余計な心配じゃ」
「あの、僕、まだあなたが誰だかわからないんですけど」
「ハグリッドって呼んでおくれ。みんなそう呼ぶんだ。さっき言ったようにホグワーツの番人だ――ホグワーツのことはもちろん知っとろうな?」
「あの……、いいえ」
ハリー・ポッターが知っている訳がないだろう。手紙を読んでいないのだから…手紙?ああ、そうか。
ホグワーツというのは、あの手紙を送ってきた学校の事だったか。
「ごめんなさい」
「ごめんなさいだと?」
男が唸るような声を出した。それにビクリと方が動く。
なんなのだこの男は。父さんだけならまだしも、ダドリーまで怯えている。
11歳とも言えどまだ子供のダドリーにまで脅かす声を出すとは…大人としても、男としても最低な人種だな。
「ごめんなさいはこいつらのセリフだ。おまえさんが手紙を受け取ってないのは知っておったが、まさかホグワーツのことも知らんとは、思ってもみなかったぞ。
なんてこった!おまえの両親がいったいどこであんなにいろんなことを学んだのか、不思議に思わなんだのか?」
「いろんなことって?」
「いろんなことって、だと?」
雷のような声が小屋の中に響いた。
「ちょっとまった!」
男の横に立って居る私だが、男の怒気と表情に体が震えた。
なんでこんなに怒っているのだ。ハリー・ポッターは手紙を読んでいないだけではないか。
他になにかがあるのだろうか?思わず父さん達の方を見る。
けれども、誰も男に目線を取られていて私の方を見る事はなかった。
「この子が……この子とあろうものが……何も知らんというのか……まったくなんにも?」
この男がハリー・ポッターに何を求めているのかがわからなかった。
何も知らない人間なんていない。なのに何も知らないと言っている。
ハリー・ポッターは何を知らないんだ?
「僕、少しなら知ってるよ。算数とか、そんなのだったら」
「われわれの世界のことだよ。つまり、あんたの世界だ。俺の世界。あんたの両親の世界のことだ。そこの嬢ちゃんはどうだか知らんがな」
「私…?」
親指で横に居る私を指されて、いきなりの事に何がなんだかわからなくなる。
なんの、世界だ?
「なんの世界?」
「ダーズリー!」
ハリー・ポッターが聞いてくれた事にホッとしたが、今にもブチギレそうだった表情の男はキレた。
何が怒る原因だったのかがわからなかった。
ただ、ハリー・ポッターが男の導火線に火をつけている事は分かった。
「じゃが、おまえさんの父さんと母さんのことは知っとるだろうな。ご両親は有名なんだ。おまえさんも有名なんだよ」
「えっ?僕の……父さんと母さんが有名だったなんて、ほんとに?」
「知らんのか……おまえは、知らんのか……」
おじさんやおばさんの事は知らないが、ハリー・ポッターの事は知っているつもりだった。
けれども、ハリー・ポッターが有名だという言葉は一度も聞いた事がない。
首を少しかしげながら、男の話を聞いた。
「二人とも勝手に喚いていろ。ハリー――おまえは魔法使いだ」
男と父が怒鳴りあったあとに言った言葉に、小屋の中の音が消えさった。
「僕が何だって?」
「魔法使いだよ、今言った通り」
ハリー・ポッターが言った言葉に、ゆっくりと同じ言葉を返した男の声は優しかった。
先程まで怒鳴っていた声とは思えなくて、少し驚く。
「しかも、訓練さえ受けりゃ、そんじょそこらの魔法使いよりすごくなる。なんせ、ああいう父さんと母さんの子だ。おまえは魔法使いに決まってる。
そうじゃないか?さて、手紙を読む時がきたようだ」
男が懐から出した手紙は、私が見た事のある手紙だった。
毎日、毎日一通ずつ着ていた手紙。
ハリー・ポッターが渡された手紙を見ている時に、私にも手紙が渡される。
「嬢ちゃんにも手紙がある。まあ、お前さんは読んだ事があるだろうがな」
少し投げやりに言われた言葉に何も返さず、手紙を開けた。
この前読んだばかりの内容が、そっくりそのまま書いてある。
魔法魔術学校…私は、この学校に行くべきなのだろうか。
少し顔をあげて、家族を見る。顔は強張っていた。
母の、私を見る目も強張っている。
「母さ…」
「ハリーは行かせんぞ」
そんな目で見ないで。そう思って口を開くと、父さんの声にさえぎられて何も言えなくなる。
「おまえのようなコチコチのマグルに、この子を引き止められるもんなら、拝見しようじゃないか」
「マグ―何て言ったの?」
「マグルだよ。連中のような魔法族ではない者をわしらはそう呼ぶ。
よりによって、俺の見た中でも最悪の、極めつきの大マグルの家で育てられるなんて、おまえさんも不運だったなあ」
男は見下したような視線で私の家族を見た。
なんで、そんな目で私の家族を見るんだ。
苦しくなって下を向く。
「ハリーを引き取った時、くだらんゴチャゴチャはおしまいにするとわしらは誓った。この子の中からそんなものは叩きだしてやると誓ったんだ!
魔法使いなんて、まったく!」
「知ってたの?おじさん、僕があの、ま、魔法使いだってこと、知ってたの?」
黙れ、黙ってくれ。
何も言わないでくれ。
そう思ったのに、周りからは色んな声が出てくる。
けど、母さんだけは言わないと思っていた。
「知ってたかですって?ああ、知っていたわ。知っていましたとも!あのしゃくな妹がそうだったんだから、おまえだってそうに決まってる。
妹にもちょうどこれと同じような手紙が来て、さっさと行っちまった……その学校とやらへね。休みで帰ってくる時にゃ、
ポケットはカエルの卵でいっぱいだし、コップをねずみに変えちまうし。私だけは、妹の本当の姿を見てたんだよ……奇人だって。
ところがどうだい、父も母も、やれリリー、それリリーって、わが家に魔女がいるのが自慢だったんだ」
言わないと、思ってたのに。私は…母さんの妹と同じ、奇人…?
私は、おかしな人間…なんだ。
視界がにじんで、周りの音がシャットアウトされた気がした。
周りはそんな私には気付かない。
まるで、私だけいない存在のようだ。
私だけいない存在。
私の耳や視界がシャットアウトされていたのが戻ったのは、ダドリーの悲鳴を聞いたからだった。
「ダ、ダドリー!!」
私の大事な半身。私の大事なダドリー。
周りを見ていなかったから、何が起こったかわからなかった。
ダドリーは地面を転がっていて、痛そうな声をあげている。ダドリーのお尻には尻尾は生えていた。
それを引き起こしたのは、隣に立っているこの男というのは間違っていないだろう。
「お…まえ!!ダドリーになんてことを!!」
わめき声と叫び声の間のようなかすれた声が出た。
何をするんだ。ダドリーが何かしたのか!?
「あんまりにも豚にそっくりでな。豚にしてやろうと思ったんだが、あんまりにも豚にそっくりなんで変えることろがなかった」
少しおどけたような声で言われた言葉に、頭の中がゴチャゴチャする。
「ふざけるな!ダドリーは、ダドリーは何もしていないだろう!?」
どんどん涙声になって、訳がわからなくなってきて、
思わず、自分の力が出てしまう。
小屋の中に強い風が吹き荒れ、暖炉についていた火が消えた。
風は私を中心にして、どんどん勢いが強くなっていき、まわりからは悲鳴が聞こえる。
…ひ、めい…?
悲鳴が聞こえたことに気付いて、ハッとして悲鳴の方を向くと、怯えた目で母さん、父さん…ダドリーが私の事を見ていた。
家族と目が合った瞬間に、頭が冷えて急に出てきた風はスッと消えていった。
私と目が合って直ぐに父さんと母さん、ダドリーは奥の部屋に入って行ってしまった。
家族の冷えた瞳に私は…どうすれば良いかわからなくなった。
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