私が寒いから

小屋の中に入ると思わず眉間に皺がよった。

潮臭い。潮の香りが凝縮されたようなにおいだった。

思わず鼻を摘みそうになるが、人間は数分間居るだけでにおいに慣れるらしいので慣れるのを待つ事にした。


においに慣れた所で父さんが皆に御飯と証したおやつを配った。

もっと腹に溜まる物を買ってきて欲しかった…と溜め息を吐きそうになるがそこは我慢して渡されたバナナとポテトチップスをできるだけ長く口の中に含む事にした。

ゆっくり食べた方が腹に溜まるらしい、テレビの情報だから間違っているかも知れないが、バクバク食べる程気は急いでいないのでゆっくり食事を取った。

食事を終え、暇になった。

特にやる事はないから特に暇だ。

みんな暇だと思っていたらしく、各自母さんから毛布を受け取った後に寝床についた。

私は何処に寝ようかと思い部屋の中を見渡すが何処もあまり変わらないように見えた。

ハリー・ポッターはダドリーの近くに転がっている。

どこに居ても変わりがないので壁の近くで眠りにつく事にした。

と言っても車の中で寝ていたので眠くは無い。

ただ海の所為で疲労だけは溜まっていた。

寝心地はよく思えない。ソファーに寝る事ができるダドリーが羨ましい。

地面は冷たいし寝心地はとてつもなく悪い…こんな悪い環境で寝れるわけが無かった。

けれど少しでも疲労を回復させようと思い目は瞑っていた。


「寒い…」


一時間程だろうか…どの位時間が立ったかわからなかったが、私は寒さに震えていた。

思わず呟く程だ。

濡れたままだったのがいけなかったのだろうか…いや、着替えようにも着替えも濡れていて着替えられなかった。

今は服は大体乾いたが、一度濡れたため体温が中々上がらない。

夜は冷え込む…どこでも当たり前だ。

多分寒さに震えているのは私とハリー・ポッター位しかいないだろう。

ダドリーは脂肪が多い為体温は下がり難いし、眠りについているから影響は少ない。

父さんと母さんは二人でくっ付いて寝ているから少し暖かくなる筈だ。

ほんの少しハリー・ポッターにくっ付いて寝れば暖かくなるのではないかと思ったがそれは何だか嫌だったので止めておこうと思った。

これ以上考えていても意味はないな…寒いのは変わらない。

暖を取ろうという思いを捨て、部屋の天井をぼんやりと見ていた。


「…起きてる?」


「…私に言っているのか?」


暫くの間天井を見ているとハリー・ポッターが声を出した。

その声に誰に言っているのだろうと思いながらも返事をする。


「うん、リチェッタに言った。あのさ…僕と背中合わせに寝ない?とても寒いんだ…リチェッタもさっき寒いって言ってたし良いと思わない?」


私が言った言葉が聞こえていたとは思わず少し固まる。

しかしハリー・ポッターとくっ付いて寝るなど何だか嫌だ。

私が寒いと言ってから暫く経っているので向こうも結構考えたのだろう。

そう思うと良いような気がしてくるがやはり嫌だ。

でも私も寒い…やはりその言葉に甘えて少しだけでもくっ付いた方が良いのではないだろうか?

長々と考え、仕方が無い。これも寒い所為だ。

と思いながらハリー・ポッターの方へ近付きドスッと寝転がり背中を合わせた。


「良いの?」


「私は寒いからな。今日だけだ」


そう言い切りブスッと黙る。

向こうも喋らなくなり無言の時間が続いた。

背中合わせに寝転がり、ほんの少しだけ暖かくなったように感じたが寒いのはあまり変わらなかった。

ちらりとダドリーの方を見る。

ダドリーの寝ているソファーには毛布が数枚使われている。

ソファーの穴を埋めるだけに使われている毛布を一枚位抜き取っても良いよな?

私が凍えるよりはマシだ。

そう思い、サッと立ち上がりダドリーの方へ向かった。

私に寄りかかっていたハリー・ポッターがバランスを崩して転がったのは見なかった事にした。

ダドリーの足を持ち上げそこに敷いてあった毛布をずるずると抜き取った。

毛布を抜き取り、足を元の状態に戻してからハリー・ポッターの横に寝転んだ。

そして今抜き取ってきた毛布を少し迷いながらもハリー・ポッターと私の上に被せた。

自分一人で使おうと思ったが、二人で使った方が暖かくなるような気がしてハリー・ポッターにも被せた。

断じてハリー・ポッターも寒いから。という理由ではない。

私が寒いからだ。

人間欲求に答えなければストレスを溜めるだけだしな、そんな貯金は御免だ。

隣りから小さく聞こえた「ありがとう」という言葉に、鼻で笑った。

毛布を足してから数分後、うとうとしてきていた私は眠りについた。



 

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