ボロ船



「リチェッタ、リチェッタ〜起きてよぉ…」


半泣きの声と、ゆさゆさ身体が揺れている感覚で目が覚めた。

不快感で眉間に皺を寄せながら目を開けると目の前に顔があった。

一瞬息を呑むが、その顔が誰かという事に気付きふっと息を吐いた。


「……ダ、ドリーか…どうかしたのか?」


「パパが起こせって…こんな寒そうな所で車から降りろって言うんだ…リチェッタ、パパに嫌だって言ってよ」


「無理だよダドリー。ダドリーだって分かってるだろ?」


苦笑いを浮かべてダドリーに車から降りるように促す。

私が言うと、少し文句を良いながら車を降りた。

それに続いて私も自分の荷物を抱え、車を降りた。


外はダドリーが言った通り寒かった。

今は夏なのにこの場所はとても冷えている。

海が近くにあるのだろうか、僅かに潮の香りがした。

車を降りて直ぐに父さんについて歩いてくと予想した通り海があった。


「今夜は嵐が来るぞ!」


海を指差し、父さんは嬉しそうに言った。

父さんが指差している方向を見て、気分がどんどん下がっていく。

指差している場所には小屋があった…海の上だ。


「このご親切な方が、船を貸してくださることになった」


ご親切な方…老人が貸してくれるという船は、とてもボロかった。

この船に全員乗ったら沈没するだろうと思い頬の筋肉が引き攣る。


「食糧は手に入れた。一同、乗船!」


父さんが号令をかけたが、誰が最初に乗り込むかという所でみんな動かなかった。

こんなボロ船に乗って沈没したら堪ったもんじゃないという所だろう。

少し溜め息を吐いて、私が最初に乗船した。

船に乗ると、キシ…と船が悲鳴を上げた。
その事に溜め息を吐いて、自分の力を使う。

あの手紙に書いてある通りなら魔法と呼ばれるものだろう。

その力を使って出来るだけ船を補強した。

直す、なんて事はしない。行き成り新品に戻ったりしてこの変な力がバレたら家族に嫌われる。だから補強だ。

もしかしたら壊れるかも知れないが、それもまた仕方が無い。

一家総出で心中という所だ。

呪うという事は出来ないかも知れないが、もし父さんだけ生き残ったら取り付いて呪ってやろうと思う。

死ぬなんて事は嫌だ。


それから全員船に乗り込み、船は小屋へと向かう為に海の上を進んだ。

船の上の環境は最悪だった。

雨風を防ぐ物が無いため、モロに雨風が当たる。

気温も低いため、ガチガチと歯が音を立てていた。

船は波に流され、小屋に向かおうとしなかったので自分の力を使ってできるだけ小屋の近くに船を向かわせた。

すいすいと向かうのは家族に疑問を持たせそうな気がしたので、つかず離れずの場所で船が自力で進むのを待った。

下がらないという所にだけ力を使った。

しかし、長い間力を制限しながらもつかない船にイラッとし、もう力を使って岩に船を着けてしまおうかと思った。

もうこの状況に我慢が出来ない。

寒いのだ。寒いし不快だ。潮の香りが身体全体に付着し、頭痛が止まらない。

イライラしていると船に波が押し寄せた。

その波に乗せられ、少し岩場に近付く。

偶然だったが、岩場に近付いた事に喜びを覚え、思わず力を使って岩場に近付いた。

岩場に着き、ホッと息を吐いた。

結局は力を使って岩場に来た事に、さっさと此処に着いても良かったのではないかと思った。

けれど長い間波や雨風に打たれていた家族は自然に着いたと思っているようなのでこれも結果としては良いのではないかと思ってよしとした。

結果よければ全て良しとまでは行かないが、まぁ良いだろう。


ぬかるみに足を取られながら進む父を見ながらそう思った。




 

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