面白い罠でも作ろうか



綾部喜八郎は首を傾げる。

自分の掘った穴が次々と暴かれている。落ちた者はたぶん下級生。

身体の跡がくっきりと残る落ち方は芸術のように思える程面白い落ち方だ。

落ち方の割に


「のぼった形跡がない」


掘った落とし穴の内壁に、何も痕跡がなくまるで消えたように思える。

まるで


「綾瀬先輩みたいだ」


一個上の綾瀬先輩。落っこちるのが妙に好きで、落っこちた穴からは落ちてないかのようにのぼってくる。

二年生であの技術力はなんだ?と話題に出ていたのだけれど、すぐに死んでしまった。

ぽっかりとあいた心の穴と、ぽっかりとあいた落とし穴。

両方とも忘れていたのに、思い出すとなんだか切ない。

綾瀬先輩が笑って落ちてくれるから、穴を掘っていたのに。

そんな切っ掛けは悲しみにくれて忘れていた。


「面白い罠でも作ろうか」


後輩を巻きこんだら刺激があっていいだろう。

一人より二人の方が楽しいと教えてくれた先輩が、目の前を通った気がしたが気の所為だと視線をそらした。


[ 61/68 ]

[*prev] [next#]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -