わくわくわく




ここ数日、一年生が迷子になりまくっているらしい。

一年生が迷子になることはよくあるけれど、毎回迷子になる地域が決まっていて。


「あっちは危ないから行ってはいけない」


そう、入学時から五年生に言われている場所の近くで迷子になっているのだ。


五年生が揃ってって!わくわくしない!?

六年生は特に何も言わないという事は、五年生が嫌だと思う事があるのだろうか?

五年生、限定!

でも、六年生も悲しい顔をしていた。つまりどういうことだ??

行ってみなきゃわからないよ!行ってみよう!

怒られるぞ!

大丈夫!僕も道連れだし、行こう!



兵太夫と伝七は、揃って学園を出た。

わくわくした顔を全面に出す兵太夫と、押し隠す伝七。

五年生が行ってはいけないという土地はどういうところだろう!



わくわくわくわく



「…なんにもない」


「裏山とさして変わりがないな」


行ってはいけない場所は、特に何もなかった。


「予想外だ…外出届まで貰ったのに!!」


「外出届もらうのてこずったのにね!もう、伝七、ここいら辺も学園の私有地だろうし…罠しかけよう!」


「…道具がないぞ」


「…僕も!今日は何故か小しころを持ってる」


「僕は忍たまの友しかない」


「私はカギ縄しか持ってないです」


「カギ縄と小しころと忍たまの友か…何もできそうにないな」


「そうですね。難しい問題です」


「…あんただれ?」


三人揃って、持っている道具を見せ合っているところで気付いた。

この人だれ?

伝七と兵太夫は顔を見合わせ、五年…いや、二年生を見る。

にこにこと笑って首を傾げる二年生を見るのは初めてだった。


「私ですか?私は綾瀬と言います」


「ご丁寧にどうも。僕は兵太夫です」


「…おい、兵太夫!知らない奴に名前教えていいのかよ!」


「こいつは伝七」


「兵太夫と伝七ですね!どうもはじめまして!よろしくです!」


「え、あ、はぁ…??はじめまして…」


こんなに笑顔で喋る二年生なんていたっけ?

頭の中をぐるぐる回しても出てこない。


「はじめまして…だからはじめて会いますよね!先輩何組ですか?」


「お、おい…兵太夫…?」


「私はですね〜は組です!」


「二年は組…時友四郎兵衛先輩と同じ組ですか」


「いいえ〜その子は知らないので後輩です!」


ニコッと笑っている二年生に、疑問符が浮かぶ。

伝七はお堅い頭をぐるぐる回し、兵太夫は柔らかい頭の中に浮かんだ一つの結論に顔色を変えた。


「…伝七」


「なんだ?」


「逃げよう!お化けだ!!」


「は?お化けはいないって安藤先生が言って………」


伝七の顔が青くなる。

目の前でニコニコ笑っていた二年生は、お化けだと認知した瞬間顔が削げ落ちていた。

ぴちゃりと落ちる赤黒い液体。顔は原形をとどめておらず、手に持っている縄は血の色に染まっている。

足なんてちぎれているではないだろうか。


「ぎゃああああ!!!」


「げっ!!伝七!!転ぶ!!!」


「あ、待って下さい!そっちは危ないです!!」


兵太夫の腕をつかみ、伝七が駆け出した。

転びそうになりながら、兵太夫は伝七と走る。


「待ってくださぁ〜い!!危ないんですってば!!」


「追いかけてくんな!!」


「ぎゃあぁああああ!!!」


二人して逃げて逃げて逃げて、どこまで逃げようとお化けは追いかけてくる。

だんだんと体力のない伝七が足をもつれさせるようになって、兵太夫が伝七を引っ張って走っていた。


前の確認はしていなかった。


「「えっ」」


足を動かしても地面はない。


崖だ。


気付いた時にはもう落下していた。

ひゅっと身体がこおばる。


「だから!危ないって言ったじゃないですか!!」


「「ぐえ」」


身体に何かが巻きついた。そう思った瞬間には身体に縄が食い込んでいた。

壁に叩きつけられ、そのまま上にあがっていく。

崖の上に戻って見えたのは、皮膚で唯一残っている口をへの字にしたお化けだった。


「私注意したのに聞いてくれないなんて酷いです!あぁ、カギ縄練習しててよかったです!」


ぷんぷんという効果音が正しいだろう。

見かけの割に可愛い怒り方をするお化けに気が抜けた。

それは伝七も同じだったようで、兵太夫に寄りかかった。

イラッとしたので、伝七に頭突きをしてお化け…もとい、綾瀬先輩を見る。


「先輩、なんで追いかけてきたんですか?」


「?ここいら辺は崖が多くて危ないですし、来ると帰り方わからなくなりますから」


「…追いかけてこなければ、崖から落ちなかった」


「そうなんですか?それはごめんなさい!」


食い込むカギ縄を丁寧にはずす綾瀬先輩に、溜息が出る。

確かに帰り方がわからない。

崖が多いという事は、ここ以外にもあるのだろう。確かにここに来るまで、山はのぼりしかなかった。


「綾瀬先輩、僕達を忍術学園まで案内してください」


「兵太夫…!?」


「いいですよ〜」


「お、お前なぁ!!こいつが悪い奴だったらどうするんだよ!」


「悪いのだったら僕達もうすでに死んでるだろ」


「そうですよ!私だって知らない人だったら放っておきますもん。勝手に死にますし〜」


「…僕達が死なないところを通って下さい」


「お願いします」


「はい!じゃあ、出発進行です〜!」


笑いながら、綾瀬先輩は元への道をすらすら進んでいく。

怖々後ろをついて歩くと、いつの間にか学園についていた。


「無事に戻ってこれたな…」


「確かにこれは、五年生が行っちゃ駄目っていうのもわかるね」


「ああ………ん?綾瀬先輩は?」


「いなくなってる」


どこに行ったんだろう?

と二人で首を傾げながら、開いていた門をくぐった。

門を誰が開けたか。そんなのは考え付かなかった。


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