きらきら
中在家先輩に連れられて、町へ出る時に、ふと聞こえてきた音があった。
それは聞いた事のある言葉で、思わず立ち止まってしまったんだ。
「…怪士丸、どうした…?」
「…鶴の恩返しを、朗読してる人が…」
この間中在家先輩に読んでもらった鶴の恩返し。
難しい漢字が出てきたので先輩に聞いたら、読んでくれた。
「…そう、だな…怪士丸。町へ急ごう」
「…はい」
その日から、その道を通るたびに何かの物語が朗読されているのを聞きとるようになった。
御釈迦話、兵法、忍術
色んな話をずーっと話していて、話は面白いけれど流石に怖くなったから中在家先輩に聞いてみた。
「あそこで、喋っている人は誰なんですか…?」
「…綾瀬、だ」
「綾瀬…先輩?」
「怪士丸にとったら先輩だろう。皆には聞こえん…ずっと、あそこにいる」
六年生なのに、珍しく悲しみを露わにする中在家先輩を見て、綾瀬先輩は死んでしまっているんだろうと暗に理解した。
「…何年何組ですか?」
「本が好きな…五年は組だ」
名も組も、聞いて答えてくれるとは思っていなかった。
本が好きだと言うのは、話している声から知っていた。
気になって気になって、あそこを通るたびにみんな引き止め、休憩して聞くのだ。
楽しそうな声色の話を。
珍しく一人で買い物に出た時のことだった。
帰り道にいつも通り休憩をとっていると、いつもの声が止んだ。
「話しに飢えている」
いつも楽しそうなのに、悲しそうな声だった。
それで思わず声をかけてしまったんだ。
「…ぼくで、よければ…」
違う話をしますよ、と。
はじめて見る先輩は、とても汚かった。恐ろしい見かけだ。
「なんでもいい、覚えている話を聞かせて欲しい」
けれど、僕を見る目は怖くなくて、話しに飢えていると言った瞳はきらりと光っていた。
「…はい…じゃあ、一寸法師を」
中在家先輩に教えてもらったばかりの話を、精一杯語り出した。
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