忘れられてる墓参り
こないだおいらが供え物を持ってこいと言ったからか、数日後に勘右衛門は団子を持ってやってきた。
「勘右衛門勘右衛門、おいらここにいるでよ」
きょろきょろと辺りを見回して、おいらの事を探していると思われる勘右衛門に声をかけた。
「ここってどこなのかわかんないよ!もう、実体化とかできないの!?」
「おっひゃー、いきなり切れられた。最近の若者は怒りっぽくって嫌でよー」
「できないの!?」
「できてたら既にしてるでよ」
おいらが居る方向とは全く逆の方を見ながら喋る勘右衛門に、笑みを浮かべる。
なんだそりゃ、面白いでよ。
「おひゃひゃ、前よりも元気そうでよ、よかったよかった!」
「ちょっと俺も考えたんだ。自分から死んでもどうしようもないってことは、こないだ綾瀬が言っていたからね」
「何を考えたったー?」
どかっとおいらの墓の前に豪快に座って、勘右衛門は団子を食べ始めた。
供えてから食べて欲しかったでよ。まぁ、供えられてもおいら食べられないけど。
「今までは、みんなを死なせたくないって思いでいっぱいだった。けど、今回は見逃してみようと思って」
「見逃す?どういうことでよ」
「一度目みたいに、みんなが死のうが何をしようが…見てるだけにしとくってこと」
「ありゃまーまーそれ勘右衛門つらくない?」
「…つらい、よ。けど、一度考えてみようと思って。みんなが何時死ぬのか。とかメモも取れるといいし」
勘右衛門は下を向いて、もぐもぐと団子を貪っている。
こんなに買ってきて、完全にやけ食いでよ。ふとるふとる。
そこを突っ込もうかと思ったけれど、メモ?と首を傾げた。
「メモとかなくなったりしないしない?」
「なくなったりしないんだ。なんか、地味に巡る前を継続してるみたいで…」
「なるほどなるほど。記憶以外は持続してるって事か」
「記憶でも持続する所があって、どこが持続されるか俺もわかんないんだよね。綾瀬は小松田さんって事務員知ってる?」
頭の中で小松田?と単語を繰り返す。
ヒットしたのは、小松田屋という扇子屋のみで、事務員にそんな名字をした人はいなかった。
「誰でよ?おいら知らん知らん」
「…なるほどね。もしかして、綾瀬は一回目に死んだの?」
「なんの事でよー」
「俺、小松田さんは五年生になってから…直ぐに居たと思っていたんだ」
「おいらが知らんってなると、勘右衛門がまわってるって気付く前にはいなかったって事でよ?」
「たぶんね。正直、綾瀬を思い出したのも最近だ」
「おっひゃークラスメイト忘れるなんて酷い奴でよ」
「みんな忘れてるよ!俺だけじゃないって」
それはそれで傷つく。
おいらと仲がよかった友人達は、みんなおいらの事を忘れているのか。
まぁ、そうでなけりゃ墓参りにきているはずでよ。潮江先輩とかは地味にくる…はず。
おいらは生きてる時は会計委員だった。
まぁ、そんな事は今は関係ないでよ。ただ、中間に居たおいらが居なくなった所為で、田村の負担がどうなっているかは心配ではある。
田村の計算は、日によってバラつきがあるから…っとと、心配してもおいら忘れられてるんだった。
意味がないない。無駄な事考えても意味がないでよ。
「あのさ、綾瀬」
「なんでよ?」
「綾瀬が覚えている限りの…学園に居た人間の名前を教えてくれない?俺の頭、たぶん上書きされてる」
「おひゃー無茶言うでよ…おいら死んだのもう十年以上前前!そんなたくさん覚えてない…でよ?」
「覚えてる限りでいいんだよ。覚えていない人間については、知ってるか俺が綾瀬に聞くから。覚えてない奴らの顔は、俺が作る。それなら確実だ」
団子の串を、おいらの墓において、勘右衛門はメモを取り出した。
バチ当たりでよ!もう、夢枕に出てもおいら知らん!おいらだけじゃなくって、おいらのご先祖様達もそこいらの近所に入ってるって、勘右衛門忘れてるでしょー。
もー、おいら知らん知らん。
そう思いながら、頭の中から、ねじり出すように、思い出深い名前をあげて行く。
ああ、こんなにたくさん出てくるのに、おいらの事を忘れるなんて、ほんとう、ひどいでよ。
つらくっても涙なんて出ない出ない。だっておいらはおばけだもの。
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