5 『ありがとう』のことばのなかに、君の『さよなら』がとけていく。



貼りつけた仮の顔は、実はあまり好きではなかったりする。

だから外に行く時はいつも化粧も何にもせずに、ただのおれになるの。

ただのおれになっても、あらあら気付いてくれる人はおりませんで。

心はどんどん荒みますとも。

気付いてくれないかな。おれだと気付いてくれないかな。

そんな寂しいこどものような事を考えながら外を歩く。学園内ではもう諦めたの。

だぁれも気付かない。あらあら、あらら。

双子の弟にすら気付かれない。むしろ存在忘れてんじゃない?という勢いだ。

たまに会うと話しかけてくるから忘れられている訳ではないけれど、やっぱり寂しいよ。

町であう人も、どの人も。誰もおれだと思いませんで。

寂しいですね。つらいですね。

そう言ってくれる方はおりませんで。


「あ、綾瀬せんぱーい!!」


「あらあら、神崎。また迷子かい?」


「今日は迷子ではありません!」


「そうかいそうかい。今は暇かな?」


「はい!峠の団子屋に行こうと思ってたのですが、ありませんでした!」


「あらら、じゃあ団子を食べに行こうか」


暗い気分の時に、うっかり声をかけられまして、あらあら。

君は気付いてくれるのね。嬉しいなぁ。

先輩ですから奢ってあげましょう。楽しい気分にさせてくれたお礼ですとも。


「あがっ」


「あらあら、神崎の髪は掴みやすくていいねぇ」


「そ、そうですか…先輩離して下さい」


「団子屋についたら離すよ」


違う方向に行こうとする神崎の髪の毛を掴んで、そのまま二人で歩く。

身長差があるので髪の毛の位置も良い感じだ。


「どこの団子屋にするのですか?」


「峠の団子屋。今の時間なら丁度空いているよ」


町から外れて歩いて行くと、あらあらやっぱりありましたね。


「おお!」


「ここに来たかったんだろう?」


「はい!ありがとうございます」


「あらら、どういたしまして。どうせだから奢るよ。適度にお食べ」


座って注文した団子を食べる。

うん。美味しい。これはまた来たいなぁ。

神崎は、きらきらと奢りだというのもあると思うが、団子を食べている。

今日は迷子の神崎に会えてよかったなぁ。

また、この団子屋にこれるといいけれど。

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